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<20>最後に巨人軍の長嶋茂雄終身名誉監督のように、選手のレベルを一瞬にして見抜く目を持つ人がいる。その目に適った選手は必ず一流になる。しかし、名選手必ずしも名監督にはならないことも真実である。アマチュア野球ではレギュラーになれなかった人が名監督になるケースが多い。 私の中学・高校・大学時代の監督(富田俊夫、溝渕峯男、渡辺融(とおる))は、いずれもこの範疇(はんちゅう)に入る。練習の厳しさを共有する姿勢、技術的なことは多くの卒業生を活用する度量、試合では選手の自主性に任せる態度などが共通点であった。良いプレーは素直に感心してくれ、間違った教えを強制するようなことは全くなかった。野球技術が選手よりも劣っていることを長所にした人たちであった。私の人生にとって、野球がかけがえのないものになった理由のひとつが良い監督に恵まれたことにある。 研究においても良い師に巡り合える人は幸運である。私は幸いにもコンクリート工学の権威、国分正胤(こくぶまさたね)・東京大学名誉教授という最高の師に恵まれた。研究の厳しさを共有する姿勢、技術的なことは多くの卒業生を活用する度量、研究の遂行には弟子の自主性に任せる態度など野球の監督との共通点があった。良い研究は素直に感心してくれ、研究課題を強制するようなことは全くなかった。また、私は幸いにも自分より優れた素質をもつ弟子に巡り会うことができ、彼は世界一の研究者となった。恩師の教えを実行し、若い研究者が育つ環境を提供できたことが私の最も大きな業績かもしれない。 平凡なことではあるが、自分を知り、敵を知ることは、きわめて重要である。私の場合、同じような投球をする投手がいなかったので、相手打者に関するデータは役に立つとは思わなかった。しかし、テレビ(当時は全試合が放映されていた)や現場で相手打者に対して常に自分であれば何を投げるかを一球ごとに判断していた。そして、その投手がここで何を投げるかを予想し、常にその結果と比較し、次の判断に活用していた。この楽しい習慣は70歳を超えた現在も続いている。 投手に必要な特性は、自らを進歩させ得ることである。本来すべての人間にとって重要なことであるが、一人の力量が特に重要で、強い独立心を要求される投手には特に大切だと思う。自分を進歩させるのは、結局自分以外にはない。投手と同じことが要求される「研究者や教育者」も、常に自らを進歩させられる人でなければ向かない職業。しかし、本人の力量や努力だけで一流となれるとは限らない。環境に恵まれることも重要である。 私の野球人生は、この点で特に恵まれていた。投手としては捕手に恵まれ、選手としては監督・先輩・後輩に恵まれ、監督としては向上心のある選手たちに恵まれた。野球を通じて多くの知己を得、そのことが、人生を豊かにしてくれている。その一部を「野球と共に」に書かせていただいた。感謝、感謝!(高知工科大学理事長 岡村甫) (終わり) (2010年8月7日 読売新聞)
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