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<15>灰沢鉱泉(上松町) 俳人も愛した静けさ(9・2)


温泉で身も心もリフレッシュできる

 街の喧騒(けんそう)を忘れたければ、木曽ヒノキの里・上松町に足を運んでみてはどうだろうか――。我が国で森林浴発祥の地として知られる赤沢自然休養林を散策した後、歴史ある秘湯に入れば、心身ともにリフレッシュできること請け合いだ。

 その鉱泉は、国道19号から4キロほど離れた山中に位置する。清流・灰沢(はいざわ)がすぐ脇を流れる3階建ての旅館は、地元の木材をふんだんに使用し、落ち着いた雰囲気だ。延べ床面積約1700平方メートル。昭和18年(1943年)の建築で、現在の主人、羽毛田盛雄さん(59)が自身で増築を重ねた。

 浴室に入ると、床と壁もヒノキ張りだった。木の香りが、かすかに漂う。浴槽は「木曽五木」の一つ、コウヤマキ材。源泉かけ流しで、湯は鉄分を豊富に含み、濃い赤茶色だ。屋外には、サワラ材の風呂がある。庭で水車が回る音を聞きながら、ただ時間が過ぎていく快感を味わえる。

 地表に自噴する源泉は8・1度。これをポンプでくみ出し、40度前後に熱する。神経痛や関節痛、冷え症に効能がある。

お勧めの鉱泉カルピス

 風呂上がりに、羽毛田さんがユニークなものを出してくれた。「鉱泉カルピス」だ。「お通じが良くなると好評ですよ」。サワーのような口当たりで、すっきりとした飲み応え。二日酔いにも効き、梅酒で割っても美味という。

 鉱泉の歴史は古い。約1300年前には「山犬の湯」と呼ばれていたとの伝承があるという。

 明治期、伊勢神宮の神殿を建て替える際、ご用材の木曽ヒノキを切り出す「御杣始(みそまはじめ)祭」が鉱泉付近で行われた。切り出したご用材を運ぶ山道の整備は数年がかりの大仕事で、鉱泉は、その労役を担った人々の疲れを癒やした。

 羽毛田家が経営するようになったのは、明治末期。リンパがんを患った羽毛田さんの祖母が14歳の時、「木曽にいい湯がある」と聞きつけ、居住していた愛知県から湯治に訪れた。その効果を信じて一家で住みつき、当時の経営者から鉱泉を譲り受けたという。「18歳までの命」と医者に宣告された祖母は湯治客の面倒を見続け、1991年、94歳の長寿を全うしたという。

 鉱泉の周囲は灰沢のせせらぎと、ツグミ、カシドリなどのさえずりが聞こえるだけ。冬には零下20度にも達し、屋内のコップの水すら凍(い)てつく。俳人、画家などが毎年のように滞在するのは、題材に事欠かないからだろう。

 読売文学賞などを受賞した現代俳句を代表する俳人、森澄雄さんもその1人。20年以上前に鉱泉を訪れた際、伸びやかな句を残している。

 「山の蟇(がま) 二つ露の目 良夜かな」

 羽毛田さんに余裕があれば、新鮮なヤマメやイワナをさばいてもくれる。山の豊かさを満喫できるはずだ。(比嘉清太)

  

 〈メモ〉

 上松町小川。(電)0264・52・3287。JR上松町から車で15分程度。日帰り入浴は要予約。料金500円。営業時間午前10時〜午後3時。定休日なし。

2006年9月2日  読売新聞)
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