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完熟トマト心も満たす弾む春トマトが青さが残るまま店頭に並ぶのが当たり前だった1980年代初め、本物の味にこだわり、販売が始まったトマトがある。旧治道(はるみち)村(現大和郡山市)の農家が毎年4月末〜7月中旬だけ出荷する「治道トマト」。真っ赤に熟してから収穫する手法は、完熟トマトの先駆けとなり、「地産地消」「生産者の顔が見える野菜」という、今、求められるものも先取りした。近年、野菜ソムリエが紹介するなど、人気が高まっている。 「常識」ぶっ壊す 81年、市民生活協同組合ならコープ(本部・奈良市)が「これまでにない商品を」と農家に提案した。その頃は日持ちなどを考えて青い状態での収穫が普通。流通するうちに赤みは出るが、真っ赤なトマトの販売はほとんどなかった。熟しすぎると皮が割れる。収穫後、1〜4日で消費者に届くのを原則にし、余れば廃棄処分。当時の常識を覆す試みに賛同したのは3人だった。 「とぐちファーム」の東口義巳さん(55)は、農薬の使用量などが厳しく決められた条件の中に「価格は農家の意見を取り入れる」とあったことにひかれた。「市場の状況で値段がつけられるのではなく、味や安全にこだわり、生産者が責任を持って価格を決める野菜が作れる」と思った。 苦難続き顔青く 当初は苦難の連続。日光の当たる角度で色づき方は異なる。一つずつ細やかにチェックする必要があった。天気の影響で一気に赤くなり、トマトが熟しすぎて畑に落ちることも。「畑いっぱいの赤いトマトに『青い時に収穫できなかったの』と近所の人が心配してくれた」と笑う。 そのうえ、熟したトマトは安売りの対象だった時代。店頭で消費者はほとんど手にとらず、「1年目は半分以上が廃棄処分になった」と、ならコープの坂本仁・産直事業担当部長は振り返る。ただ、購入者からのお客様カードには「本当のトマトの味」「青臭くなくて子どもが喜んで食べた」とあり、可能性を感じた。 販売戦略に力を入れた。農家が店頭に立って商品を説明。試食を促し、「丸かじりしてください」と訴えた。畑の見学会も企画。生産現場を知ってもらうことで消費者に安心感を与え、店頭では商品に生産者の名前や写真を添えた。 基本的に県内のみの販売だったが、口コミで広まった。10年で売り上げが1億円を超え、現在、農家9人が年間200トン以上を生産する。 産地偽装など食への関心が高まる中、シニアベジタブル&フルーツマイスターの関宏美さん(奈良市)は「酸味と甘み、水分のバランスがすばらしい」と講演会で取り上げる。人気の理由を「20世紀は胃袋を満たすための食。今は生産者への感謝や野菜のパワーを感じる、心を満たす食が求められている」と話す。 「うまい」今年も 「これまでは見た目の美しさや安定した量が求められていた。でも、消費者は安心して食べられるうまい野菜を求めているんだと確信した」と東口さん。「今年の出来もいいですよ」と胸を張る。 (白石佳奈) (2009年5月13日 読売新聞)
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