ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
現在位置は
です

本文です

合併をバネ米パン人気<5>

「安心安全のおいしいパンを」と、未明から米粉パンを作る主婦ら(新見市哲西町の「こめ工房」で)

 国の天然記念物「鯉(こい)が窪(くぼ)湿原」で知られる新見市の哲西地区(旧哲西町)は、市中心部から20キロ離れた広島県境の米どころ。2005年3月、5市町の合併で、新市の総面積が約790平方キロと、旧哲西町の10倍に広がり、地域の個性が埋没するのではと住民らは心配したが、特産の米を生かそうとパンの製造に立ち上がった主婦、道の駅「鯉が窪」を拠点に農業振興を目指す農家、地域のリーダーらで結成したNPO法人「きらめき広場」などが中心となり、「合併して良かったと、みんなが思える町づくり」を進めている。

 午前3時。国道182号沿いにある道の駅の一角から、煌々(こうこう)と明かりが漏れる。米粉パンを作る「こめ工房」が光源だ。中では、主婦10人が食パンなどの製造に忙しい。

 道の駅は1997年、県と哲西町が建設して開業、第3セクターの「アクティブ哲西」(社長=深井正・旧哲西町長)が運営する。「こめ工房」は2003年、「地域の作物を使い、家族や地域の人に安全安心のパンを提供したい」と代表の中山恵子さん(41)ら6人の主婦が町に申し出、町も米の消費拡大、健康づくりに期待して快諾。道の駅内での製造が始まった。

 中山さんが「主婦のお遊びにしたくない」と言うように、当初から独立採算性。米はもちろん、調理パンに使う千屋牛肉、野菜は地元産にこだわり、学校給食などへと販路を広げた。合併の年には、町が実績を認め道の駅東隣に新工場を建設、本格的な製造が始まった。

 店舗販売だけでなく、販路は新見市域から、広島県庄原市まで広がり、移動販売車2台が6ルートを走る。合併前は、1日の生産量300個前後だったが、合併後はパンの種類も2倍の約50種に増え、生産量も800個を超える。売り上げも5倍に。働く人も10人になり、雇用の場としても貢献している。中山さんは「哲西の主婦の力を見てほしい。工房を会社組織にするのが夢」と誇らしげだ。

 パンの焼ける甘い香りが届く道の駅には、100戸以上の農家が生産する野菜、有機無農薬栽培のアイガモ米、農産加工品など数百種類が並び、周辺から多くの人が〈哲西の味〉を求めて集まる。店舗奥にある米の製粉工場では、駅長の岡崎太郎さん(60)らが忙しく立ち働く。

 アクティブ哲西が運営する製粉工場は「こめ工房」に米粉を卸しているが、微粒子にまでできる技術が評判で、山口県の営農組合、島根県のパンの店など西日本の15団体からの委託製造も手がけている。今では道の駅の主力部門だ。

 道の駅そばにある市の複合施設「きらめき広場・哲西」には、市哲西支局、図書館、診療所、文化ホール、生涯学習センター、NPO法人「きらめき広場」事務局が同居している。

 哲西図書館からは、指定管理者の同NPO法人が少子化対策として月2回開いている子育てサロンに集う子どもらのにぎやかな声が響く。図書の貸し出しにとどまらず、「行政の手の届かない地域活動」が目標で、本を読みたい主婦のための託児制度も設けている。

 合併後も少子高齢化は進み、地区内の人口の減少傾向にも歯止めはかかっていない。しかし、幼児2人を育てながら、サロンに毎回参加している田中有美さん(27)は「ここで話し合えば育児の悩みも小さくなり、勇気をもらえる。子育ての大きな味方」と話す。

 同NPO法人は、行政関係者、商工業者、農業団体代表、元労働組合役員ら66人が会員登録。理事長の奥津一冨美(ひふみ)さん(67)は「道の駅など産業面とはすみ分けし、我々は、住民の心を結びつけ、潜在する地域のパワー〈哲西力〉の発揮を手助けしている。健康診断の実施などで住民の健康づくりを進め、住民が元気で参加する合併後の町づくりとして、人口も増加に転じさせ、全国のモデルケースにしたい」と力を込める。(木曽田学)

2008年1月7日  読売新聞)
現在位置は
です