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第2部 小児救急 《5》 小児ICU(2005年10月18日)

“救命の砦”県内に築け

写真:写真説明
長野県立こども病院の小児ICU。専任の医師と看護師らが集中治療にあたる
 「小児救急の最後の砦(とりで)となるべき医療施設の整備は、欧米に比べ30年以上遅れている」

 7月1日、仙台市で開かれた日本小児救急医学会。埼玉医大総合医療センター(川越市)小児科の桜井淑男医師(44)は、子供のための集中治療室「小児ICU」の整備を訴えた。

 1〜14歳の死因の第1位は、交通事故や転落、水死など「不慮の事故」。2003年には、県内で25人が死亡した。命の瀬戸際にある患者は、救急医療を最も必要としている。「小児ICUがあれば、もっと多くの子供を救うことができる」と桜井医師は指摘する。

 「不慮の事故による子供の死亡率は、小児ICUがある地域では、ない地域に比べて明らかに低い」。同センター小児科の田村正徳教授(56)と桜井医師は4月、こんな調査結果を公表した。

 専任医師がいる小児ICUは、東京都や神奈川県などに16か所(計97床)。埼玉県内にもICUと名のつく病床はあるが、本格的なものではない。

 長野県安曇野市の同県立こども病院は、01年に小児ICU(8床)を設けた先進的な病院だ。集中治療科の宮坂恵子医師(48)は「小児ICUが出来てから、心肺停止などの患者の救命率は確実に高くなった」と話す。

 今年4月、用水路に転落した同県内の女児(4)が救急車で運び込まれた。姉と自転車で遊びに行った途中で姿が見えなくなり、発見まで約30分かかっていた。心臓は止まり、体温は34度まで下がっていた。

 小児ICUに、脳外科や心臓外科を専門とする同院の医師が集まった。頭蓋(ずがい)内にセンサーを付けて脳圧を監視し、心臓の動きを助ける人工心肺補助装置をつなぐ、高度な集中治療が続いた。3週間後、女児は自ら歩いて退院したという。

 全身の状態をコントロールし、専門性を持つ医師や看護師らが総力を挙げて治療にかかる。そんな治療が出来るのが小児ICUだ。「私たちは保険のようなもの。いざというときの安心です」と宮坂医師は語る。

 小児ICUは、ヨーロッパでは小児人口約4万人に1床、米国は約2万人に1床ある。桜井医師は「日本がヨーロッパと同水準になれば、1〜4歳で年間500人の命が助かる」と言う。

 それには現在の5倍の500床が必要だ。埼玉県では、3施設26床の整備が必要になる。

 県立小児医療センターの鍵本聖一・総合診療科部長(47)は「いずれは24時間対応できる本格的な小児ICUを整備しなければならない」と語り、埼玉医大総合医療センターも導入を模索している。

 小児ICUの整備には、医師や看護師の人件費、医療機器など費用面のハードルも高い。危機を脱した子供が家に戻れるようにするため、リハビリや在宅医療の充実も欠かせない。

 長野県立こども病院の石曽根新八院長(60)はこう話す。「高度な医療を担う病院として、救急医療は避けて通れない。この病院も赤字だが、田中康夫知事も理解してくれている」

 子供の命を救う最後の砦をどう築くのか。先進県に学ぶべきことは少なくない。

 【小児ICU】 生死にかかわる病気やけがを負った重症の子供を診る集中治療室。国の医療施設調査(2002年)によると、大人の集中治療室は全国で5194床、新生児集中治療室(NICU)は2122床あるが、1〜14歳の子供を診る小児ICUの整備は遅れている。

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