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■川越の巻 その9 「織物市場」(2006年2月20日)

住民の熱意実り保存

写真:写真説明
周辺のマンションに見下ろされるようにたたずむ「川越織物市場」
 川越街道から蓮馨寺門前通りに入って右手に、住宅やマンションに囲まれて古びた長屋2棟がたたずむ。1910年(明治43年)に建てられた〈川越織物市場〉。織物の集散地だった川越の歴史の一端を今に伝える。明治期には関東各地にあった市場だが、建物が完全な形で残る例はほとんどないという。

 大正時代に市場としての役割を終えた長屋は、貸家に変わり、かつて織物を積んだ荷車が行き交った長屋の間の広場は、子供の遊び場や近隣住民の交流の場になった。

 市場がある松江町で生まれ育った測量会社社長西澤堅さん(65)は「夏休みには、広場で子供会のラジオ体操があって、たくさんの子供が集まった。ベーゴマや相撲するのに格好の場だった」と思い出す。63年には三国連太郎主演の映画「無法松の一生」のロケ地となり、一目見ようという近隣住民が押し掛けた。

 2001年11月、市場を壊してマンションを建てる計画が町内に伝えられた。西澤さんは「うちの一族には市場創設にかかわった者もいるし、私にとっては子供のころの思い出の場所。歴史的遺物を壊してまで、マンションを建てる必要はない」と、妻真喜子さん(61)と共に市場保存のために動き出した。

 市場隣のマンションに住むタウン誌編集者藤井美登利さん(44)は、市博物館の展示を見て、初めて市場の歴史を知った。「博物館に展示されるような貴重な建物を壊していいのかと居ても立ってもいられない気持ちになった」と、各方面に保存の必要性を訴えた。


写真:写真説明
藤井美登利さん
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西澤堅さん
写真:写真説明
戸田喜一郎さん
写真:写真説明
小島延夫さん
写真:写真説明
西澤真喜子さん
 意気投合した住民たちは、署名活動を行い、取り壊しが始まらないよう、約半年間にわたって交代で市場に詰めて監視した。

 運動にかかわった同町住民で弁護士小島延夫さん(46)は「取り壊しの危機があったことで市場の価値を再発見できたし、保存運動を通して地域が活性化した」と振り返る。住民たちの熱意を受け、川越市は地権者から土地を買い取り、市場保存を決定。昨年3月には市の文化財に指定した。

 自治会長として運動をとりまとめたいも菓子店「東洋堂」の戸田喜一郎さん(78)は、「川越の人は古いものを守ろうとする意識が高いんだ」と誇らし気に語る。

 現在、市場は市の計画づくりを待って休眠状態にあるが、月に1回、見学会などのイベントが開かれている。戸田さんは「将来は織物体験をやったり、織物のお土産を置いて、人を呼び込める拠点にできたらいいな」と思いをはせる。

 復活を待つ市場には住民たちの夢が詰まっている。

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