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薬物依存症家族の闘い「あの子が来年から正社員になるんです」。11月下旬、記者の携帯電話に連絡があった。薬物依存症の長男(28)を持つ女性(62)からの「朗報」だった。 薬物依存者の家族支援に取り組むNPO「ドムクス」(事務局・伊豆の国市)の家族会を3月に取材した。薬物依存症となった家族を持つ約40人がグループに分かれ、互いに苦悩を打ち明けていた。代表の岩松美八子さんは「皆、孤独なんです。悩みを吐き出す場所を求めているんです」と、戸惑う記者を案内してくれた。 電話をくれた女性とは、そこで出会った。長男は高校生の頃から薬物に手を出し、薬物を買う金を要求して両親に暴力を振るうまで、依存症は進んでいた。 女性と知り合った当時、長男はアルバイトをしながら薬物への誘惑と闘っている最中だった。静岡市内の家を訪ねると、天井には、意識がもうろうとした状態で長男が椅子を振り上げた時にできた、生々しい傷が残っていた。 女性は当初、「しょせん家族の内輪の話。外の人にはわからない」と、取材に対し口をつぐんでいた。それでも、女性のもとに何度も通い詰めるうちに、長男の心身をむしばんだ薬物と闘ってきた家族の姿を、徐々に語り始めてくれた。そこで聞いた話は、5月に掲載された連載「薬物依存」で記事にした。 12月上旬、再び女性宅を訪ねた。長男は年明けから、アルバイト先の建設会社で正社員として働くことになったという。天井の傷が残る部屋には、11月に長男が帰省した時に撮った家族の写真が飾られていた。止まっていた家族の時間が、少しずつだが、進み出していると感じた。 「内輪の話で終わらせてはいけない」。家族を再び歩み出させたのは、8か月前、そう言って私の取材に応じてくれた、女性の勇気があったからだろう。その勇気に応えるためにも、そして、薬物により苦しむ人やその家族を増やさないためにも、私は取材を続けるつもりだ。(小沢理貴) (2011年12月17日 読売新聞)
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