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7)体験者と向き合う学生

「戦争を生きた先輩たち」の続編のゲラをチェックする北見さん(右)ら松野ゼミのメンバー(八王子市の中央大で)

 「カシカンって、どう書くんですか」。千代田区の事務所で、旧日本海軍で航空機の整備士をしていた生井重男さん(83)(板橋区)に、中央大学総合政策学部3年の北見英城(ひでき)さん(22)は恐縮しながら質問した。

 少しとまどった表情を見せた生井さんに「下士官」と教わったが、軍隊の中での位置づけがわからず、後からインターネットで調べた。生井さんに学校で軍事教練をしていたと聞いても、なぜ学生が戦争の訓練をするのか、想像できなかった。そのため、当時の言葉や考え方について、本を読んだり、戦争をテーマにした映画を見たりして、一つひとつ勉強を重ねた。

 生井さんは中大のOB。北見さんの所属するゼミが戦争体験者の聞き取りをしているとテレビで知り、大学に問い合わせしたことが出会うきっかけとなった。これまで自分の体験を話したいと思いながら、機会がなかった。

 終戦の2日後、生井さんがいた相模野航空基地(神奈川県)で、徹底抗戦を主張する下士官たちによるクーデター(未遂)が起きた。兵士たちの中で、すぐに戦争が終わったわけではなかった。

 取材を受けた生井さんは「当時は当たり前の言葉が、今は通じません。体験を話すことが、こんなに大変とは」と苦笑い。それでも、「平和の大切さを伝えたいという熱気を感じた。会うのが楽しみだった」。いつしか孫のような存在になっていた。

 結局、北見さんは生井さんに5回ほど面会し、報告をまとめるまで半年ほどかかったが、「なんで人間同士殺し合わなければならないんだ」という生井さんの思いを引き出すことができた。

 北見さんが入っているのは、メディア論が専門の松野良一教授のゼミ。2004年2月から、ゼミ生約40人が毎月、10分間のドキュメンタリー「多摩探検隊」を作り、ケーブルテレビなどで放映してもらっている。

 戦争体験者が減少していく中で、「今、記録しなければ、もうチャンスがない」と翌年8月から年1回、「多摩の戦跡」をテーマに特集するようになった。その後、OBから戦争体験の聞き取りも始めた。卒業生名簿や遺族会をたどってOBを探し出しては取材を重ねてきた。「映像作品では細かい描写は難しい」と松野教授。

 聞き取りの成果は今月、「戦争を生きた先輩たち」(中央大学出版部)としてまとめられた。9月に出版される予定の続編と合わせ、ビルマ戦線で捕虜になった人やシベリアに抑留された人ら33人分が収録される。取材に応じたのは約50人に上る。

 かつての自分と同じように、日常の中で戦争について考えることは難しいと実感している北見さん。だが、体験者と真剣に向き合う中で、自分たちが直接話を聞ける最後の世代だという責任を強く感じるようになった。「年に1度、8月15日の正午に1分でいいから黙とうしてほしい」。それが同世代へのメッセージだ。(おわり)

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 この連載は十河靖晃が担当しました。

2010年8月19日  読売新聞)
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