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(9)先人に学び進化を上野幸夫職藝学院教授国宝瑞龍寺(高岡市)など数多くの伝統建築の修復に携わる上野幸夫・職藝学院教授(建築史)に、作り手からみた県内の伝統家屋の特徴を聞いた。 ◇ 《急傾斜のかやぶき屋根を持つ合掌造りや、散居村のアズマダチなど富山の伝統的家屋は、冬の積雪や湿気との戦いによって形作られてきた》 水分を多く含む富山の雪の比重は0・1〜0・25。乾いた北海道の雪の0・05と比べると、非常に重い。また、常にぬれたような状態となる木材の腐りやすさは全国トップクラスだ。北陸は冬場が非常に湿潤で、立ち木ですら、日が当たりにくいところには、かびが生えているくらいだ。そのため、合掌造りなど伝統家屋は、風通しのよい造りになっている。 南砺市の五箇山合掌造り集落の民家は、屋根から落ちる雪でけがをしないよう妻入りが多い。同じ世界遺産でも、雪の少ない岐阜県側の白川郷ではヒラ入りも結構ある。 屋根の角度は60度と一般的な住宅よりかなり急で、妻側からみると正三角形。角度がこれより緩いと豪雪の重みでつぶれるし、きついと風を受けてしまう。また、屋根の骨格となる「サス」の長さを、正三角形の底辺となる梁(はり)の長さに合わせる「はり返し」で簡単に測って作れるメリットもある。 サスの下端は鉛筆のようにとがらせ、梁に彫ったくぼみにちょこんと差すだけのピン構造になっている。屋根にかかる、たわみの力を家本体に伝えず、地震の揺れなども吸収する。 伝統家屋は家全体が適度に揺れて、地震の揺れを吸収する発想で造られている。合掌造りの屋根の下にあるメッシュ状の竹のコマエも、バネの効果で家本体に伝わる揺れを少なくする。今の住宅は、柱と柱の間に斜めに筋交いを入れて構造をがっちり固めてがんばるもので、伝統家屋の発想とは全く異なる。 合掌造りに使う梁には、山の斜面で育ち、雪の重みで根曲がりした木を使う。大工の使う手斧(ちょうな)に形が似ているので「チョンナバリ」と呼ばれる。曲がりがバネのように働き、屋根や雪の重みを外側の柱に逃がす。 《アズマダチでは、真ん中に設ける広間「ワクノウチ」が構造上、重要だ》 太い梁(ハリマモン)や差しかもい(ヒラモン)などを組んで強度を確保したのがワクノウチ。砺波や能登の豪雪地帯で独自に発達した。がっちりと家本体を支えるので、今も家を建て替えるのに、ワクノウチだけはそのまま再利用するという人もいる。 □ ■ □ 《合掌造り、アズマダチとも築100年以上の古い家は珍しくない》 そもそも昔の家は移築が当たり前で、解体しやすい造りになっていた。合掌造りは部材同士を継ぎ手やくさびでつなげたり、水に浸して柔らかくした若木で縛ったりしただけ。アズマダチも柱同士を刺し通す「貫(ぬき)」をはずせば解体は容易だ。 お金が必要になったときに転売しやすく、人の手から手へ移っていった。五箇山の合掌集落の半数は移築されたものだし、完成からわずか十数年で売りに出したという文書も残っている。家は今のような「不動産」でなく「動産」だったと言える。 富山では今も3世代世帯が残っていて、大きな家屋敷を守る意識がある。土蔵も、全国では壊してしまっているのに、南砺市の城端や井口あたりでは今も新しい土蔵を造っている。 □ ■ □ 《現代の家と考え方が異なる》 「100年たった家はすごい」というのが欧米の考え方だが、日本だけが建築年数がたてばたつほど価値が下がり、土地だけの値段になる。むしろ上物は邪魔者扱いで、土地を売っても解体費用が引かれてしまう。 こうなったのは戦後施行された建築基準法の影響が大きい。かつては「隣が太さ7寸の柱を使うなら、うちは8寸」と競争して、結果的に長持ちする家を造ってきたが、基準法で最小限の柱の太さが規定されたため、みんな最小限の方に走ってしまった。また、基準法では高さ30センチ以上の基礎を作ることになっているが、これでは軒下が閉鎖され、風通しが悪くなって木材が腐りやすくなる。湿潤な気候では昔通り石の上に柱を立てた方がよい。 風通しを重視する伝統家屋が寒いのは確かだが、構造をそのまま維持しながら断熱材を床や天井に入れることは可能。寒さを克服しながら先人の知恵に学び、家を進化させていけばよい。 (2011年1月12日 読売新聞)
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