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【第10回】健康寿命を延ばす環境楽しい「無尽」 元気の秘訣山梨大学と読売新聞甲府支局が共催する連続市民講座「今、地球に何が起きているか〜地球環境と山梨、今そこにある大いなる挑戦」の最終講義が14日、同大甲府東キャンパスで開かれた。医学部の山縣(やまがた)然太朗(ぜんたろう)教授が「健康長寿を延ばす環境」と題して講義。「健康寿命日本一」の山梨の背景に「無尽」を象徴とする住民同士の密接な信頼関係があることを指摘した。高齢になっても、健康でいきいきとした生活を送るには、人や社会に積極的にかかわり、「趣味や生きがいを持ち、大切にしていくことが健康の何よりの秘訣(ひけつ)」と訴えた。 ■健康寿命日本一 体の機能は、生まれた時から年をとるに従って衰えていきます。理想は最期まで元気で、「ころっ」と亡くなることという方が多くいます。こうした一生を送るにはどうしたらいいのでしょうか。ずっと元気で生活していくということを指標にしたのが「健康寿命」です。自立して生活できる、介護が必要のない寿命のことをいいます。90歳で亡くなる5年前に要介護状態になると、健康寿命は85歳です。 世界保健機関(WHO)の調査では、世界で日本の健康寿命は断然トップ。2002年の健康寿命の調査では、日本の中で山梨県は女性がトップ、男性も2位。山梨の平均寿命は男性21位、女性12位(05年)で、けっして長くないにもかかわらず、健康寿命は長い。本当に最期まで元気な人が多くいるということです。 ■無尽で長寿 02年に高齢者1800人中600人を対象に、1年後に自分で食事や排せつ、立って歩けるかなど25項目を調査しました。人との付き合い、友人や旅行仲間がいる人は1年後も元気でいる可能性が高い。例えば、悩みを相談する相手がいると、いない人に比べて次の年に元気でいる可能性が3倍高くなっていました。地域の集まりに全然参加しない人を1とすると、参加している人は1・6倍。三つ以上の集まりに参加する人は2・4倍で、参加数が増えるほど次の年も元気でいる可能性が高い。同じ健康状態でも、家に閉じこもっている人よりは外に出ようという意識があったり、社会とかかわったりしている人は、ふと気付いてみると元気だったということが分かります。 次に無尽です。定期的な会合、飲み会、旅行会のことで、みなさんやっていると思います。三つぐらい参加している人が多い。「無尽に参加していると元気なのか?」。ここが今日の一番のポイントです。1年たっても元気な人は、無尽にたくさん参加しているだろうと思って調査したら、全然変わりませんでした。 しかし、無尽には色々あります。参加して楽しい無尽、楽しくない無尽があります。楽しいと思っている人は、そうでない人より4〜6倍も健康寿命にプラスだと分かりました。ただ参加するのではなくて、楽しめているのか、これがとても大切なことだと分かりました。 さらに話の内容も、生活や家族、仕事の話は必ずしも良いわけではなく、健康、政治の話をして盛り上がるのが良かったのです。趣味の話も良い。思い出や世間話より、こういった話を無尽仲間とできるのが良いと分かりました。ただ、選挙の話をすると1年後の健康維持が1倍を下回ったので、早死にするかもしれません。 ■よそ者意識 「よそ者意識」が強い都道府県ほど健康寿命が長くなっていました。山梨県はよそ者意識がまだあると思っている人が多く、健康寿命も長い。どうしてでしょうか。 孤立感、孤独感が強いと健康寿命が長くない。開放的よりも閉鎖的な環境のほうが心の安寧があるのかもしれません。人のつながりを表す「社会的ネットワーク」と、社会的凝集性や団結力と呼ばれる「ソーシャルコヒージョン」も健康寿命に関係しています。ボランティア活動や仕事をすること、近所や友人と会う機会を多くすることはとても良いことです。 その理由として、健康情報が早く入手できること、互いの健康状態を知ることができること、何よりも無尽仲間の信頼関係が良いということがあげられます。退院してから、家族よりも無尽仲間が色々なことをやってくれて、地域に戻ることができたという話があります。それぐらい強いつながりが無尽だと思います。 仕事と健康寿命の関係です。山梨は65歳以上の有職者の割合が高い。47都道府県のデータでは、65歳以上の人が働いていないところは健康寿命も長くないという結果でした。つまり、高齢で退職しても、何らかの仕事があることが男女共にとても大切ということです。 これは次の課題ですが、一生働く職業によっても元気が違うかもしれません。例えば農業。何もないところから半年、1年の単位で収穫していきます。きっと健康に良いと思いませんか。これを科学的に証明していきたいと思います。そのほかお金も、使わない人よりは少し使う人のほうが健康寿命は長く、適度な収入がある方が良いようですが、あり過ぎてもだめなようです。 ◆住民の力、上手に結集 ■「ほうとう」の効用 食生活との関係で「ほうとう」も健康寿命には良い。ほうとうは色々な野菜がたくさん入っていて、プラスの面がたくさんあります。一方で塩分が多い。当初、差し引きして少しプラス程度で健康寿命は変わらないと思っていましたが、よく食べる人は元気でした。ほうとうは地域の食材を使って、大きな鍋で作り、みんなで食べる。つまり、食育、地産地消です。「食」というものを空腹を満たすためだけでなく、生活の中で大切に考える。その代表食としてほうとうがあるのではないかと解釈したわけです。 食生活はとても大事です。年をとっても血管など体の細胞は作り替えられます。流れる川は見た時はいつも同じかもしれませんが、流れている水はいつも違う。私たちの体も同様に、見た目は同じでも常に替わっています。高齢になっても欠食せず、肉や魚を食べ、バランスのとれた栄養を摂ることが必要です。 保健医療システムの充実も健康長寿につながっています。山梨県は人口当たりの保健師の数が日本一多い。47都道府県で保健師の数が少ないところは健康寿命が短いことからも、保健師と健康寿命には関係があるといえます。保健師の大切な仕事に、地域の人の集まりをコーディネートすることがあります。例えば「食生活改善推進委員会」や「健康を考える会」とか。地域活動を推進するためには住民の力を上手に結集することが大切で、山梨は昔からそれができています。 ■健康の「社会資本」 ソーシャルキャピタル。「社会資本」と呼ばれ、経済、政治で使われている言葉ですが、最近は健康の中でもソーシャルキャピタルの重要性がいわれるようになってきました。では、健康にかかわるソーシャルキャピタルとは何か。先程述べた「ソーシャルコヒージョン」や集団としての特性でみると無尽もそうです。それから「社会的ネットワーク」もです。 アメリカの調査で「肥満は伝染する」というものがあります。禁煙も同様で、信頼できる上司や友人が肥満だと、自分の中の規範が崩れ、いつの間にか肥満になっている。人間関係の距離が自らに影響する証左です。健康とソーシャルキャピタルの関係が最近非常に分かってきていて、格差社会の中で弱体化しているのではないかといわれています。また、アフリカのガボンは国民総生産(GNP)が同程度の国と比べて平均寿命が短い。ガボンは社会的に不安な地域です。不安が健康にかかわっていることが分かります。アメリカの所得格差と死亡率の調査では、格差が大きくなればなるほど死亡率が高くなりました。 今、日本でも格差が問題になっています。全体として日本は1980年代〜2000年代にかけて格差が広がっています。格差が健康に関係するのではあれば、日本はどうだろうということになります。 一方で、山梨のソーシャルキャピタル。つまり無尽、それに母子支援や自治会活動も盛んです。農協、商工会の活動も盛んだと聞いています。さらに保健師の活動。これらが健康寿命を支えています。 ■やりたいこと大切に 最後のまとめです。健康づくりは、自分が何をやりたいのかと思うことが大切です。歩かないとできないことがあるから歩く。起きていないと自分でやりたいことができないから起きるわけです。 人に迷惑をかける、かけないは二の次です。とにかく自分でやりたいこと、趣味などがあるかどうか、まずそれを大切にすることです。それを自分だけでなく、共にできる仲間がいると楽しく続けていきたいという気持ちになります。健康関連のソーシャルキャピタルはとても大切で、「信頼」という言葉で置き換えることもできるかもしれません。 山梨には良い言葉があります。「人は城、人は石垣、人は掘」。まさに環境としての人、健康にとっての人がとても大切だということです。山梨県の健康寿命に取り組んでいく時に、こうしたことを頭に入れながら、何が必要か考えていくことが必要です。 (2009年3月20日 読売新聞)
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