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「起訴状一本主義」とは 大八木治夫教授

裁く側の公平性を担保

大八木治夫教授大八木治夫教授

 Q「起訴状一本主義」とは何ですか。

 裁判官が裁判をする前に事件について先入観や偏見を持ってしまうと、公平な判断ができなくなるおそれがあります。このため、裁判官は先入観や偏見にとらわれることのないよう、起訴状だけを読んで白紙の状態で公判に臨むこと、これを起訴状一本主義と呼んでおり、刑事裁判の大原則です。これは刑事訴訟法256条に規定され、検察官は起訴の際、裁判所に提出できるのは起訴状だけで、そのほかの書類を添付したり引用したりすることはできません。警察や検察などの捜査機関が収集した証拠は、公判開始後に証拠採用決定を経て初めて裁判官は証拠に接し、徐々に判決に向け心証を形成するのです。

 しかし、裁判員裁判では、裁判員に過大な負担をかけないなどの配慮から、裁判を計画的に迅速に行うために、裁判員が関与していない公判開始前の段階で、裁判官主導の下、検察官、弁護人が参加して(被告人は任意)、争点と証拠の整理、審理計画の策定などが行われるのです。これを公判前整理手続きと言います。

 この手続きでは裁判官が関与して証拠などを整理するため、裁判官が、公判前に事件に対する何らかの心証を持ってしまう可能性があり、起訴状一本主義に反するおそれがあります。制度を作った側は、「裁判官は証拠の整理だけで心証は形成しない」とか、「検察側だけでなく、弁護側も立ち会って双方の証拠を整理するので公平だ」などと主張するかもしれません。しかしながら裁判官も人間です。起訴状以外の証拠に接しながら全く予断を持たないなどということがあり得るのでしょうか。

 公判前整理手続きを行った殺人事件で、公判を開始した当日に判決言い渡しがなされた例がありました。審理の日程を決めるのは裁判官です。裁判官が公判開始前にすでに争点や証拠整理を通して何らかの心証を形成していたからこそ、判決が即日になされたものと思います。

 Q裁判員の声を生かすにはどうしたらいいのですか。

 私が検事時代に経験したことですが、夏休みに法廷傍聴に来ていた小学3年生の女の子に公判後、「何か質問はありますか?」と尋ねると、「裁判官はどうして黒い服なの?」と言われました。私自身はそんな疑問を持ったことはなかったので、とまどっていると、裁判所の女性職員が「何ごとにも染まらないようにという意味ですよ」と助け舟を出してくれました。

 一般の人々の声を裁判に取り入れ、反映させるのが裁判員制度です。裁判員の発言や質問に裁判官が「はっ」とさせられることは必ずあるはずです。

 裁判員が自ら考え、自由に発言できる機会を裁判官が用意し、裁判員の発言に真剣に耳を傾けることができるかどうか。被害者にも被告にも納得してもらえるように十分な審議を各自が誠実に尽くしていけるか。そのことがこの制度を充実させていくために大切なことです。一般市民の声を取り入れるという裁判員制度の意義はここにあります。

 おおやぎ・はるお 刑事訴訟法、法曹倫理担当。中央大法学部卒。元東京高検検事、横浜弁護士会所属弁護士。

2009年10月20日  読売新聞)
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