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【3】生活支援ロボット〜人の生活・命を支援する機械たち〜

作業代行、監視…人を守る

「ロボットをどんな目的で使うのか、教育の充実、倫理観が欠かせない」と語る小谷准教授
歩行ガイドロボット。センサーを使い目的地まで安全に歩行者を案内する(山梨大学工学部提供)

  □小谷信司准教授

 山梨大学と読売新聞甲府支局が共催する連続市民講座「いのちの輝きに想(おも)いを寄せて」の第3回講義が20日、同大甲府東キャンパスで行われた。同大工学部の小谷信司准教授が「生活支援ロボット〜人の生活・命を支援する機械たち〜」と題し、人の生活の質を改善するロボットの最新技術を紹介した。現代と将来の日本が抱える問題点についても言及し、人とロボットの共生のあり方を解説した。

■ロボットの歴史

 世界で最初のロボットは「パンドラの箱」のパンドラです。ギリシア神話の神のうち、ヘーパイストスという神が泥で美しいパンドラを造りました。そのパンドラが人間社会に降りてきて、箱を開けると中から最後に出てきたのが希望と夢だった、とされています。

 18世紀の終わり頃、つまり産業革命の頃にオートマトン(自動人形)という言葉が出てきます。時計で知られるスイス、手先が器用な日本のオートマトンが有名です。スイスにはオルゴールのぜんまいを動力源としてオルガンを演奏する人形があります。日本にもくじらのひげを動力源として、弓矢を引く人形などがあります。これらにはコンピューターや電源はなく、非常に高い技術が使われています。

 1886年、フランスの小説の中でアンドロイド(人造人間)が登場します。貴族がトーマス・エジソンに人造人間を造るよう命じた、という内容です。

 ロボットという言葉が定義したのは1920年。チェコスロバキアの戯曲の中で人造の生物、つまりロボットが出てきます。ロボットの語源はチェコ語で労働を意味するロボタなのです。

 1942年に米国の科学者アイザック・アシモフが小説の中で発表した「ロボット工学3原則」は現代にも絶対適用されるべきです。例えばロボットに命令して隣の家の人に悪さをしてはいけない。また軍で活用される攻撃的なロボットを造ってはいけない。このような倫理観は教育の場で教えなければなりません。

■ロボットテクノロジー

 社団法人「日本ロボット工業会」は、ロボットの技術、ロボットテクノロジー(RT)を使った市場は、〈1〉ものづくり・RT製品〈2〉安全・安心・公共〈3〉生活・サービス――の三つに分かれると分析しています。〈1〉は工場の中などで使われるロボット、〈2〉は手術や介護福祉などで使われるロボット、〈3〉は家事や育児で使われるロボットです。

 現在〈1〉の市場は1・3兆円。ところが〈2〉、〈3〉は産業として成り立っていません。これらの分野で市場を飛躍的に伸ばそうと政府が計画しています。20年後には〈1〉が4・7兆円、〈2〉が2・7兆円、〈3〉が2・3兆円と、全体で約10兆円にしようという案です。それだけRTは今後注目される分野です。

■ものづくり

 産業用ロボットを製造する世界最新の現場では、体育館ほどの広さでロボットがすべて自動で加工、組み立てをしています。また、山梨大の牧野洋名誉教授は「SCARA(スカラ)」という組立用ロボットを作り、単純な繰り返し作業を軽減させました。このロボットは06年、ロボット研究で有名な米カーネギーメロン大学が設立した「ロボット殿堂」に入りました。日本でこれまでに殿堂入りしたロボットはホンダの「アシモ」、手塚治虫の「鉄腕アトム」、ソニーの「アイボ」、そして「SCARA」の四つだけです。

 ロボットは柔らかいものを扱う作業が苦手です。山梨大では紙箱の組み立てや風呂敷を包むロボットを研究しています。今は人がやった方が早いので導入されていませんが、ロボットにやらせると作業が楽になります。ロボットを使うと人はもっとクリエイティブな仕事ができる。これも一つの生活支援ロボットだと私は定義しています。

■安全・安心・公共

 単純作業や3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれる作業は、人の命を守る意味でも土木、建設、交通の場でロボットに任せる方がいい。道路の白線を引く作業は交通事故の確率が高い危ない仕事です。山梨大は画像処理の技術を使って、直線や曲線がひけるロボットを開発しました。このロボットは安全面で問題があり実用化できませんでしたが、実現すれば交通事故を減らすことができます。

 腹腔(ふっこう)手術を支援するロボットもあります。昔はおなかの手術のたびに患者のお腹を大きく切っていましたが、手術用の器具を効率的に操作するロボットを使えば小さな穴で手術ができます。

 歩くリハビリの分野で活用できるロボットもあります。機器を足に装着することで患者の歩き方を分析し、医師の診断に活用するほか、足を押して正しい歩き方にする。これは実用化が近いシステムです。

 市街地の病院の医師がモニターなどを通じて山間地域にいる眼科患者を診断するシステムも開発されています。山間地域に住むお年寄りは病院に行くため自分で運転したりタクシーを呼んだりと、金銭的、心理的につらいと思いますが、このシステムが実用化されれば市街地に出なくても医師の診察が受けられます。

 自動車の運転手の集中力を監視するシステムもあります。まばたきの回数などを監視して眠そうかどうかを調べ、眠そうな時はエアコンの風を運転手に当てるなどして安全運転できるようにします。

 視覚障害者を目的地まで安全に誘導するロボットも開発されています。日本には約30万人の視覚障害者がいて、そのうち1万人は盲導犬がいれば自立した生活を送れます。しかし日本には盲導犬が800頭しかいません。また、盲導犬は段差や曲がり角で一時停止しますが経路は知らず、視覚障害者は目的地までの道順をすべて覚えなければなりません。そこで、障害者を安全に誘導できるロボットが開発されました。また、センサーを使ってより安全に歩行者を誘導する白杖もあります。ロボットは人のすべての動作ではなく、欠けた動作を代行することが大事なのです。

 介護福祉で有名なのは手が不自由な人の食事を支援するロボットです。これは山梨大で開発したロボットではありませんが、家族と話をしながら食べたいものを食べたい順番で食べられると評判です。

■生活・サービス

 アミューズメント用に開発されたロボットも生活支援の分野で意義があります。例えば独り暮らしの高齢者と会話できるロボットはいやしに効果的です。山梨大では、傘回しや金魚すくいをするロボットが研究されており、これらは日本の伝統芸能の保存にも貢献できます。

 世界で一番売れている米国製の掃除ロボット「ルンバディスカバリー」は300万の家庭で使われています。バッテリーが切れれば充電場所に戻る機能がありますが、日本は家が狭いのであまり普及していません。

■人間との共生

 日本の総人口は、2105年には約4460万人にまで減るという統計があります。さらに問題なのは、2055年には2・5人に1人が65歳以上の高齢者になること。家族構成も単独世帯数が増えています。この現状下でロボットの技術を導入しなければなりません。認知症、障害を持つ人も増えています。家事や育児も女性に負担がかかっています。6歳未満の子供がいる家庭では日本の女性は1日に7時間以上、男性は48分しか家事をしていないからです。

 少子高齢化社会の課題解決、産学連携の新たなモデルの実現、人材育成を目的に、06年に「東京大学IRT(情報ロボット技術)研究機構」ができました。日本を代表する企業7社も協働でロボットの開発をしています。同機構が開発した食器洗いロボットや、モップがけや洋服を洗濯機に運ぶ掃除ロボットは2008年の段階で、まだ動作が遅いなど課題が残ります。また、屋内外で使える1人乗りの車も開発されていますが、大きすぎて屋内で使いにくい。しかしIRTを活用すると様々な人の生活を改善することができます。そのためにはロボットと人間が共生できる環境整備も必要です。

 ロボットを教育現場で取り上げることは学生の学習意欲に効果的です。大学の教授が県内の高校に出張授業を行い、ロボットの作り方を教えたことがありましたが、それまで興味のなかった高校生がロボットの仕組みやロボット造りの楽しさなどを学びました。教育をする中で、ロボットをどんな目的で使うのかなど倫理観を教えていかなければなりません。大学は研究だけでなくこれらの教育行う役割を負っていると考えます。

◆ロボット工学3原則◆

 1ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを黙視していてはならない。

 2ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第1原則に反する命令はその限りではない。

 3ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただしそれは第1、第2原則に違反しない場合に限る。(アイザック・アシモフ著「わたしはロボット」=創元SF文庫より)

2009年6月26日  読売新聞)
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