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都会の疲れ癒やされる元営業マン企画力で勝負
現場作業を終えた技能職員が戻って来て活気づく北都留森林組合の事務所。次の日の打ち合わせなどが行われる(2枚とも上野原市上野原で) 「八重山の森」で整備の方法を検討する中田さん。約30年の樹齢なのに、幹が直径20センチほどにしか育っていないのは、手入れが行き届いていないから。試行錯誤は続く
上野原市の市街地にほど近い八重山の森は、スギやヒノキがひょろひょろと伸び、地面にはササが生い茂る。日中だというのに地表に日光が届かず、生き物の気配もない。 「こういう森は根が張っていないから、大雨で全部流されてしまう」 北都留森林組合(上野原市)の参事、中田無双(なかだむそう)(44)は、手入れが行き届いていない「暗い森」の中で、改善策を練っていた。 伐採の計画や販売ルートの確保、森林体験イベントの実施といった企画立案を担う参事職に就いているが、時間を見つけて現場に入るよう心がけている。 ◎ 上野原市、丹波山村、小菅村の森林を整備する同組合。同市にある小さなプレハブ事務所には、日が暮れると、山で間伐や枝打ちなどの作業を行っていた技能職員が次々と戻って来る。「作業の進み具合はどう?」「次の体験教室の準備はどうしようか」といった会話が飛び交い、雰囲気が明るくなる。
現場作業を終えた技能職員が戻って来て活気づく北都留森林組合の事務所。次の日の打ち合わせなどが行われる(2枚とも上野原市上野原で) 「八重山の森」で整備の方法を検討する中田さん。約30年の樹齢なのに、幹が直径20センチほどにしか育っていないのは、手入れが行き届いていないから。試行錯誤は続く
技能職員33人中20人以上が、東京都や神奈川県などからやって来たIターンの就職者。平均年齢も40歳で、高齢化と後継者不足に悩む業界では異例の若さだ。 組合専務の長田助成(おさだじょせい)(69)が「あと10年で山に入る人がいなくなる」と危機感を持ったのは1990年代前半。技能職員の平均年齢が68歳に達し、後継者がいなくなりかけていた。 会社を辞めてUターン帰郷していた30歳代の男性を強引に誘ったところ、「山の仕事が楽しい」と組合で働くようになった。 20歳代の地元出身者を引き入れることにも成功すると、ベテラン職員は2人に林務技術を教えるようになった。手作業に頼る昔ながらの雰囲気を薄めようと、重機も新たに導入。組合は、にわかに活気づいた。 「若い希望者をどんどん採用しよう」。積極策の結果、この20年で30人以上の若者が組合に入った。ボーナスや月給制を導入し、2年目まで入居できる寮も用意した。地元出身者の採用は減ったが、都会からは毎年3人以上が集まった。 ◎ ◎ 中田は東京都足立区の出身。東京都内の大手書店で、研究者に洋書や論文集を売り込む営業マンだった。ある時、付き合いがあった大学の研究者に「森は面白いぞ」と切り出された。日本の人工林が伐採時期に入ったことや、木材価格の下落で森林整備が追いつかないことなどを聞き、林業に興味を持った。 1999年、組合の林業体験に参加。昼夜を問わず働き、休日も接待ゴルフが続いていた中田は、体験を通じて「都会の人は森でリフレッシュできる」と確信した。 2001年、組合に転職。都市生活者の関心を森に向ける「森のコンサート」などの企画書を携えていた。「山仕事には向かない」という周囲の評価だったが、長田は07年、企画力を買って参事に引き上げた。 ここ数年で一般的となった「企業の森」は、「東京の会社に山を奪われる」という警戒心が地元に渦巻き、当初はうまくいかなかった。中田は都会の小中学生をできるだけ多く林業体験に招き、子どもたちが喜ぶ姿を見てもらうことで、「都市生活者が山に関心を持っている」「山を活気づけるチャンス」という意識を浸透させていった。 その結果、小菅村にJT(東京)とホンダ(同)、丹波山村に東急ホテルズ(同)を招致することに成功。企業の支援で下草刈りが行われるようになり、間伐体験に訪れた社員が観光施設などに立ち寄っている。 中田には「山の価値観と都会の価値観の通訳をする人が必要」という都会育ちだからこその信念があった。 ◎ ◎ ◎ 中田は小菅村で、村唯一のパン店を営む妻・雅子(43)と暮らす。「都会からIターンした森林組合の人間が、山のシンクタンクの役割を果たせればいい」。これからも、森に新風を吹き込み続けるつもりだ。(敬称略) (2012年1月1日 読売新聞)
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