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連載・特集
富士山は今 世界遺産登録への課題
「資産」保護策に不備


 「六根清浄、お山は晴天」。吉田口登山道の起点・北口本宮冨士浅間神社の参道に、富士講行者の斉藤義次さん(72)の声が響く。昔ながらの白装束で、手には金剛杖。富士山に登って五十年を超える斉藤さんの姿が、いにしえの山岳信仰を今に伝える。

 世界自然遺産の国内候補地から外れた富士山だが、文化遺産としての登録の可能性を模索する動きがある。特に注目されているのが「文化的景観」というとらえ方だ。


写真:写真説明
今も受け継がれる「富士講」。豊かな自然を誇る富士山は信仰や芸術も生み出してきた
 日本人の心をひきつけてやまない富士山は万葉集の和歌に詠まれ、絵画や文学など様々な芸術の題材となってきた。思想や信仰にも大きな影響を与え、江戸時代には、富士山を信仰の対象として登頂を目指す宗教団体の「講」が各地にできた。「江戸八百八町には八百八講」と言われるほど盛んになり、幕府から禁止令も出たほどだ。

 かつて富士講行者の登山の拠点となった富士吉田市には、宿坊にあたる「御使(おし)の家」が百軒近く立ち並んだ。富士山に向かって真っすぐに道が伸びる町並みは、今も変わらない。

 同市を拠点に活動する市民団体「富士山歴史の道を守る会」の山地重広さんは、「富士山そのものが信仰や文化を生み出し、ふもとの富士吉田市の都市構造にまで影響を及ぼしている」と語る。国の文化財保護審議会の特別委員会も二〇〇〇年十一月、「顕著な価値を有する文化的景観。早期に世界遺産に推薦できるよう、強く希望する」との意見をまとめている。

 しかし、課題も多い。保護の方策を見ても、文化財保護法で五合目から上と登山道周辺は「特別名勝」に指定されているが、ふもとまでを文化財として保護する規定はない。富士講も信仰は続いているが衰退をたどり、「御師の家」も数軒が残るだけになっている。

 こうした「文化的資産」の管理の不備や調査研究不足を指摘する声も強い。「自然遺産がだめだったから、今度は文化遺産、という訳にはいかない」(文化庁記念物課)のは確かだ。

 さらに、山ろくに広がるゴルフ場や五合目に立ち並ぶ巨大な土産品販売の施設、山頂から自由につながる携帯電話。どれも現代が生み出した文化だが、信仰や思想、芸術をはぐくんだ霊峰の威厳となじむかどうか。世界遺産登録を目指す取り組みは、日本人が富士山とともに作り上げてきた文化とは何かを問い直すきっかけでもある。(おわり)

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