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    山のお供に携帯トイレ

     今年から8月11日は、国民の祝日「山の日」となった。休日が増え、各地の山はにぎわいを増しそうだが、多くの登山者が訪れることにより、し尿処理などの問題が課題となっている。

    登山道に使用ブース 北海道・利尻島

    • 利尻山の登山道に設置された、携帯トイレ用のブース
      利尻山の登山道に設置された、携帯トイレ用のブース

     「礼文島から眺めた夕方の利尻岳の美しくはげしい姿を、私は忘れることが出来ない」。作家で登山家の深田久弥は著書「日本百名山」で北海道・利尻山(1721メートル)をこうたたえている。

     日本海に浮かぶ利尻島にそびえる北の名峰だが、十数年前はし尿の悪臭が漂っていたという。登山ブームで毎年1万人以上が押し寄せる一方、往復約10時間の登山道にトイレがなかったためだ。8合目付近にある避難小屋にもなく、周辺には汚物やティッシュペーパーも散乱していた。

     見かねた地元自治体や民間ボランティアが、し尿を各自で持ち帰ってもらう試みを2000年に始めた。携帯トイレを登山者に無料で配布し、山中に用を足すブース、登山口には回収ボックスを置いた。

     06年以降、携帯トイレは有料になったが「利用率」は年々上昇。島内の売店などでは15年、3841個が販売され、使用済みの2690個が回収された。

     記者も1個400円の携帯トイレを島内の売店で購入し、利尻山頂を目指した。

     ルートは二つあり、記者は登山者が多い「鴛泊おしどまりコース」をたどった。途中、3か所に携帯トイレを使えるスペースが確保されていた。四方を木の壁で囲い、内部には携帯トイレをかぶせるための便座がある。トイレ特有の悪臭は感じない。

     壁に掲示された使用手順に従い、便座に携帯トイレをかぶせ、上に座る。使用後は袋の口をしっかりと締め、ザックの中に収めた。最初は背中の辺りが気になったが、日本海を眺めながら下山するうちに忘れてしまった。道中、し尿の悪臭は全くせず、使用済みのトイレットペーパーなど汚物を目にすることもなかった。

     使用済みの携帯トイレは、下山口にあるボックスに入れた。地元自治体が週に3回収集し、一般ゴミと一緒に焼却処分しているという。東京都内から訪れた会社員久保巴哉さん(24)は「携帯トイレは思ったよりも簡単に使えた」と笑顔を見せた。

     「山のトイレを考える会」(札幌市)事務局長で北海道大農学部の愛甲哲也准教授は「日帰り登山が中心の山では、携帯トイレの出番は多い。登山者にとっても、無理にトイレを我慢する必要がなくなるメリットがある」と話している。

    環境配慮型へ切り替え進む

     全国の山岳では、し尿処理の問題に悩まされてきた。

     富士山(静岡、山梨県)では00年頃まで、5合目より上にあるトイレでは、たまったし尿を放流する方式だった。悪臭が漂い、山肌に汚物とトイレットペーパーが付着して白い跡を残す「白い川」が問題化した。

     当時、国内外のメディアで報じられたこともあり、環境省や静岡、山梨両県は02年からトイレの整備を進めた。5合目より上の50か所を▽カキ殻にすむ微生物が汚物を分解する「浄化循環式」▽おがくずと汚物を混ぜて分解、堆肥化する「バイオ式」▽タンクに汚物をためる「くみ取り式」▽タンクに設置したバーナーで汚物を燃やす「燃焼式」――などの「環境配慮型」に切り替えた。これに併せて、両県は、登山者に携帯トイレの持参も呼び掛けている。

     NPO法人日本トイレ研究所(東京)によると、全国に250~300ある山小屋の半分以上にこうしたトイレが設置されている。槍ヶ岳(長野、岐阜県)、穂高岳(同)、丹沢山(神奈川県)など人気の場所で設置が進んでいるという。

     富士山は13年、世界文化遺産に登録され、さらに登山者が増えた。だが、既存のトイレは老朽化しつつあり、更新の費用が課題になっている。同法人の上幸雄うえこうお理事は「全国的にみれば、環境にやさしいトイレの設置はまだ足りない。更新が必要な場所も多く、高額なコストを誰が負担するのかなど、問題もある」と指摘している。(高沢剛史、野崎達也)

    2016年08月15日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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