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    イチゴ温室でCO2再利用

    排ガス由来 収量増も狙う

     温室栽培の暖房機の排ガスから二酸化炭素(CO2)を回収し、これを作物に噴きつけて収穫量を増やす農法が注目を集めている。地球温暖化を招くCO2は、植物の光合成には欠かせない材料。「悪役」を再利用し、収量アップを図る一石二鳥の農法を試みる愛知県の農場を訪ねた。

    チューブ穴から噴出

    • イチゴの根元のチューブからCO2が噴き出す様子を説明するフタバ産業の丹羽さん(愛知県西尾市のキングファームで)
      イチゴの根元のチューブからCO2が噴き出す様子を説明するフタバ産業の丹羽さん(愛知県西尾市のキングファームで)

     昨年、排ガスを再利用して温室にCO2を供給するシステムを導入した愛知県西尾市の農園「キングファーム」の温室には、赤く熟れたイチゴの畑が広がっていた。

     温室は広さ約1500平方メートル。作物の根元に太さ約4センチのビニール製チューブがあり、数十センチ間隔で開いた小さな穴から、CO2が噴き出している。

     温室栽培は現在、ボイラーで重油を燃やして室内を暖める方式が主流だが、近年は暖房と同時に、灯油を燃やしてCO2を温室内に排出する装置で収穫増を目指す農家も増えている。しかし、暖房機とCO2排出機がそれぞれ、燃料を燃やすため、温暖化防止の観点から対策が求められていた。

     キングファームの場合、排ガスの再利用により、大気中に排出するCO2を年間約2トン削減すると同時に、CO2排出機で使う燃料も削減できるという。

     CO2の導入でどれくらい収量が増えるのか。福岡県農業総合試験場が別の温室で調べた結果、イチゴの収量は通常より2~3割多かった。キングファームでも収量は増加しているといい、農園の事業部長、林勝さん(61)は「果実が大きく、環境負荷も少ない」と満足げだ。

    異業種が開発

     キングファームのシステムを開発したのは、愛知県岡崎市に本社があるトヨタ自動車系部品メーカー「フタバ産業」。自動車エンジンのマフラーを製造しており、排ガスの浄化技術はもともと得意分野だった。

     開発を担当した丹羽祐治さん(46)によると、排ガスから窒素酸化物などの不純物を触媒で除去し、残ったCO2をタンクに貯蔵、温室内で再利用する。12年に開発を始め、16年夏に試験販売を始めた。

     愛知県以外でも取り組みが進む。JFEエンジニアリング(東京都千代田区)は14年に、排ガスのCO2を再利用するシステムを北海道苫小牧市にある1・5ヘクタールの大規模農場「Jファーム」に設置。天然ガス発電機で作った熱で温室を温め、排ガス由来のCO2で野菜を育てている。発電機の電気は温室に隣接する事務所の照明に利用。CO2排出量は同規模の農場より年間約410トン少なくなった。

     国立環境研究所の統計によると、2015年度に全国の農業分野で排出されたCO2は149万7000トン。ヒートポンプやバイオ燃料などの導入でCO2の削減は進んでいるが、農水省の担当者は「燃料を使うことが多い温室からの排出は依然として多い」と話す。

     農林水産省の12年度のデータによると、CO2排出機を導入する農地は全国で1448ヘクタール。現状では温室面積全体の約3%に過ぎないが、全国農業協同組合連合会(JA全農)の担当者は「温室栽培が盛んなオランダでの実績や、国内での研究の進展で、CO2排出機を導入する農家が増えている」と話す。排ガス再利用によるCO2の削減に期待がかかる。

    普及の鍵はコスト

     内閣府の農林水産業技術の検討会で委員を務める斉藤章さん(44)によると、排ガス由来のCO2の再利用は、先進地のオランダを中心に拡大している。オランダは北海で豊富にとれる天然ガスを安価に使えるため、もともと大規模な温室栽培が多く、CO2の再利用も日本に先行して拡大した。

     しかし、日本ではまだ導入コストが高く、一般的とは言い難い。国内で普及している灯油を燃やすCO2発生機は1台数十万円。今夏から一般販売が予定されるフタバ産業は1台200万円前後で調整中だ。

     高知大学農林海洋科学部の宮内樹代史きよし准教授(52)(施設生産システム学)は「開発競争が激しくなれば価格は下がる。導入コストをどこまで抑えられるかが、普及の鍵だ」と話している。(前村尚)

    2017年05月29日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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