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    「虫には虫」の天敵農法

    化学農薬より負荷少なく

    • 温室のクレオメで育つタバコカスミカメを振るい落とす桑尾さん(左)と森田さん(高知県安芸市で)
      温室のクレオメで育つタバコカスミカメを振るい落とす桑尾さん(左)と森田さん(高知県安芸市で)

     農作物の害虫を天敵の昆虫で駆除する「天敵農法」が全国に広まっている。害虫以外の生物を殺したり、人体に有害な化学成分が農作物に残留したりする恐れがない長所がある。害虫駆除効果の高い天敵の開発と利用が各地で進んでいる。


    ナスの温室で

     ナスの収穫量が全国1位の高知県で、ほとんどのナス農家が害虫退治に利用する「タバコカスミカメ」という天敵昆虫がある。体は緑色で、体長は数ミリ。ナスなどの野菜類に付くコナジラミなどの害虫を好んで食べる。2005年頃、全国に先駆けて利用し始め、県内のナス農家の導入率は昨年、95%に達した。

     ナス栽培が盛んな安芸市で天敵のカスミカメを増殖する温室を8月初旬に訪ねた。栽培されていたのはナスではなく、観葉植物の「クレオメ」や食用にもなる「ゴマ」。温室は地元のナス農家が共同で管理している。

     技術指導に当たる県安芸農業振興センターの桑尾亜須加さん(30)と森田千尋さん(25)がゴマの花の下に紙を差し出し、茎を揺すると、紙に緑色の虫が数匹、落ちてきた。桑尾さんは「これがカスミカメ。害虫が発生する前の時期なので、ここではゴマなどの葉を食べて成長する。ナスには害を与えない」と説明してくれた。カスミカメは、ナスの栽培が始まる9月頃に捕まえ、ナスの温室に移される。

     県専門技術員(病害虫)の中石一英さん(51)によると、化学農薬は、耐性を持つ害虫が現れると効かなくなることがあるが、天敵農法には、その心配がない。

     温室を管理する農家グループ代表の川島誠哉さん(51)は「農薬は週1回はまく必要があったが、カスミカメは1回放てばどんどん害虫を食べてくれる。費用も安くて済む」と話した。

     高知のナス栽培での実績を踏まえ、農林水産省は12~14年度、カスミカメの利用を、環境負荷が少ない農業を目指すプロジェクトに選んだ。ナス以外の野菜も含むマニュアルが作成され、利用が拡大した。

     高知では現在、ピーマンやシシトウなどの温室栽培にも使われており、中石さんによると、岡山、佐賀、鹿児島など少なくとも7県で利用が始まっている。

    飛ばぬテントウムシ

     カスミカメはまだ天敵昆虫を農薬として使う「生物農薬」として登録されていないため、販売はできない。しかし、国内では1995年以降、20種類以上が登録・販売され、中には外来昆虫も含まれる。

     最近の例には農研機構西日本農業研究センター(広島県福山市)の世古智一主任研究員(40)らが開発した「飛ばないテントウムシ」がある。アブラムシの天敵のテントウムシを利用する試みは以前からあったが、テントウムシが飛んで逃げてしまうのが課題だった。羽を折って飛べなくする方法も試みられたが、手間がかかり、普及しなかった。

     世古さんは、ナミテントウ約100匹を野外で捕まえ、特殊な装置で個々の飛行能力を測定。能力の低い個体を選び、約4年間で30世代以上の交配を繰り返し、遺伝的に飛べない系統を作製した。その後、共同研究したメーカーが商品化、14年に市販を始めた。「生物農薬」の中には2009年に1500万円だった出荷額が、14年に25倍以上の3億8000万円に拡大したケースもある。

     天敵が増えすぎ、生態系のバランスが崩れる可能性について、日本応用動物昆虫学会会長の矢野栄二さん(66)(元近畿大教授)は「まず心配ない」と言う。「生物農薬」の登録には国の審査を受け、承認を得る必要があるが、生態系を脅かす恐れがあれば認められないためだ。

     飛ばないテントウムシを開発した世古さんも「アリにも捕まえられるくらい弱い。エサになる害虫が多い栽培地以外では生存競争を勝ち抜けない」と話す。高知県のタバコカスミカメは土着の昆虫だが、大増殖したという報告はない。

     矢野さんは「現状では化学農薬よりコストが高くつく場合が多く、コストダウンが普及の鍵だ。生態系に配慮しながら、利用を拡大していく必要がある」と話している。(竹内芳朗)

    2017年08月28日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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