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    聞きたい みどりの経済(1)温暖化対策が投資呼ぶ

    高崎経済大学 水口剛教授

    •  1962年生まれ。筑波大卒業後、監査法人勤務などを経て、高崎経済大講師。2008年から現職。専門は責任投資。環境省のESG検討会委員などを歴任。近著に『ESG投資 新しい資本主義のかたち』がある。
       1962年生まれ。筑波大卒業後、監査法人勤務などを経て、高崎経済大講師。2008年から現職。専門は責任投資。環境省のESG検討会委員などを歴任。近著に『ESG投資 新しい資本主義のかたち』がある。

     2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みを定めた「パリ協定」の実現を目指し、投資家、企業、政府、自治体が新たな手法を使った環境対策に動き始めている。今世紀後半に世界で温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にするという高いハードルを掲げる協定の発効から、来月4日で1年。環境と経済の両立を目指す先進的な試みを、4回に分けて紹介する。1回目のテーマは投資の流れを変え、企業に温暖化対策を促す取り組みについて。この問題に詳しい高崎経済大学の水口剛教授(55)に聞いた。(編集委員 佐藤淳)

     温暖化を始めとする世界規模の課題に取り組む経営姿勢を投資判断に組み入れる「ESG投資」が拡大している。きっかけは、2006年に国連が世界の投資家や運用機関に署名を呼びかけた「責任投資原則」という取り組みだった。

     六つの原則の最初に、環境、社会、企業統治(略称ESG)の課題への企業の取り組み状況を、投資判断に組み込むと宣言している。昨年4月時点で1500を超える機関が署名し、運用資産の総額は62兆ドルに達した。今年、署名機関は1800を超え、日本でも60機関が署名している。私たちが支払う年金の掛け金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が2年前に署名し、急速に関心が高まっている。

     ESG投資はまず欧米で拡大した。08年のリーマン・ショック以降、短期的な利益ばかりを追求したことへの反省の機運が、投資家の間で高まったことが背景にある。経済格差の拡大で極端なナショナリズムが広がり、社会が不安定化した。アフリカや中東から移民が押し寄せた欧州では、このままでは社会や経済が持たないとの危機感が特に強い。

     環境の分野で言えば、温暖化で頻発するようになった豪雨や洪水で生産設備が被害を受けたり、原材料が高騰したりといった影響が現実的な脅威になり始めたことが大きい。大規模な風水害や干ばつで多くの人命が奪われるようになった。

     こうした危機感が広がる中で合意されたパリ協定は、企業には、新たな排出規制で追加の支出を求められるリスク要因になるが、その反面、再生可能エネルギーや電気自動車といった新事業を生み出すチャンスにもなる。リスクと機会が明確になり、ESG投資が実際の収益に結びつくようになってきた。

     年金の価値は、年金を受け取る老後の社会状況によって大きく変わる。石炭産業への投資が短期的に利益を生んだとしても、その結果、温暖化が進んで毎年のように洪水が発生するような社会になれば、年金だけでは暮らせなくなるかもしれない。投資とは本来、農家が翌年以降の作付けのために、作物の種を保存しておくように、将来に備えるためのもの。長期的な視点で、温暖化対策にお金が回るような経済に変えていく必要がある。

    パリ協定

     2015年12月に採択され、16年11月に発効した。産業革命前からの気温上昇を2度より十分低く抑えるとの目標を掲げる。すべての国が削減目標を作り、その達成に向けて国内対策を実施する必要がある。

    ESG投資

     環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮する企業を選んで行う投資。投資先との対話を通じて、ESG対策を促す「エンゲージメント」のほか、ESGへの配慮が足りない企業から投資を引き揚げる「ダイベストメント」と呼ばれる行動を含む場合もある。環境(E)では温暖化対策のほか、森林や生態系の保全、社会(S)では人権問題、企業統治(G)では、法令順守や取締役会の構成などが対象になる。

    GPIF

     世界最大規模の年金基金。今年6月末時点の運用資産額は約149兆円に達する。厚生労働省管轄の独立行政法人で、国民年金と厚生年金の保険料のうち、年金として給付されない積立金を国内外の株式や債券として運用している。実際の運用は、大半が運用機関に委託して行われる。多額の資金を運用するGPIFのような年金基金や保険会社は「機関投資家」と呼ばれ、その投資行動が世界の資本市場に大きな影響を与える。

    2017年10月16日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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