文字サイズ

    聞きたい みどりの経済(2)情報開示で商機広がる

    住友化学  十倉 ( とくら ) 雅和社長

    • 1950年生まれ。74年、東大経済学部卒、住友化学工業(2004年に社名変更)入社。11年から代表取締役社長。15年から経団連副会長。
      1950年生まれ。74年、東大経済学部卒、住友化学工業(2004年に社名変更)入社。11年から代表取締役社長。15年から経団連副会長。

     世界の国が力を合わせて対策を進め、地球温暖化を抑止するための国際条約「パリ協定」は、11月4日で発効から1年を迎える。対策の担い手として急速に注目を集めるのが、企業ごとの取り組みだ。「持続可能な開発目標」に基づく実践でも、企業の存在感は増す。新たな方向への舵取り役、住友化学の十倉雅和社長(67)に聞いた。

     地球温暖化は、一国あるいは一企業で対応するにはもう限界を超えている。地球市民として人々や企業が、各国政府とともに取り組まないと克服できない。

     金融安定理事会のもとの「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が6月に提言を公表した。温室効果ガス排出や事業計画・戦略のより詳しい開示を求める内容だった。

     住友化学がこれを支持する声明を出したのは、会社の歴史に関係がある。住友グループの事業の源流は、愛媛県新居浜の別子銅山で行っていた銅の製錬だった。そこから亜硫酸ガスが出て、地域の田畑に害を与えた。試行錯誤で対策を探り、亜硫酸ガスから肥料を作り始めた。それが住友化学の前身、住友肥料製造所だった。環境に関しては思い入れというか、こだわりがある。

     世界全体で地球環境を守ろうという中、金融の持っている力は大きい。環境問題を真剣に考えている企業に投資しよう、それにより世界中の企業でイノベーションを起こして二酸化炭素(CO2)をはじめ温室効果ガスを削減しようというESG投資は、早晩世界の流れとなる。先頭を切ってその流れに飛び込んでいく、挑戦している姿勢を世界に見せることが大事だと思う。

     温室効果ガスの排出に関しても、事業戦略についても、情報開示しないと投資家が評価できませんよね。投資家は情報がなければ選べない。金融機関やマーケットの評価を受けて事業機会をつかむこともできる。

     ただ、鉄、化学、パルプといった素材産業は、自動車やオフィス機器など材料を組み立てる産業に比べ、CO2の排出量が多い。そこで、原料を買って材料を作り、お客様に届けて使ってもらって、廃棄して――という一連のライフサイクルの中でCO2排出を減らしていくことを、化学産業界は提案している。

     例えば、住友化学は電気自動車に使われるリチウムイオン2次電池の安全性を高めるセパレータという部材を作っている。作る際にかなりCO2を排出するが、化石燃料で走る車が電気自動車に置きかわればCO2排出はぐっと減る。

     CO2を減らすには企業として必死の努力をしなければいけないし、苦しい場面もあるだろう。しかし目の前には、CO2排出の少ない材料や、削減に役立つ材料・機能を提供できるというビジネスチャンスが広がっている。

     住友化学には現在、2020年までに05年比で温室効果ガス排出原単位(生産量1トン当たりで排出されるCO2の量)を15%減らすという目標がある。次の目標をどうするか、検討中だ。科学に基づく目標(SBT)の設定はやらなければいけないと思っている。設定するとまだ表明していないが、作る以上は力を尽くし、かつ慎重にやっていきたい。いろいろな手も打っている。子会社の住友共同電力は、主電源を石炭火力から天然ガスなどCO2排出の少ない燃料に転換していく方針だ。

     日本の企業は昔から、売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しを念頭にやってきた。短期の利益より、世の中のお役にたつことを重んじ、寿命の長い企業も多い。国連の持続可能な開発目標の考え方は、日本の企業にはしっくりくる。(編集委員 河野博子)


    ※持続可能な開発目標

     2016~30年に世界が目指す目標で、15年9月にニューヨークの国連総会で採択された。法的拘束力はない。すべての国連加盟国による交渉を経て決まった17の目標と169の小目標は多岐にわたり、貧富の格差是正や公正な社会の実現にも力点が置かれる。地球環境の破綻を防ぐには、経済社会のあり方を変えねばならないという考えが根底にある。


    TCFD

     主要国の金融当局で作る金融安定理事会が、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて設けた民間主導の特別チーム、Task Force on Climate‐related Financial Disclosures(TCFD)。最終報告書(提言)は、企業に対し、気候変動が経営に及ぼすリスクと機会を把握し、関連する事業目標や戦略の自主的な開示を促している。日本企業2社を含む世界の企業100余社が支持を表明した。

    SBT

     パリ協定の「2度目標」(産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える)に整合する温室効果ガスの排出削減目標のこと。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が対策の度合いによって異なる将来の気温上昇シナリオを描いた報告が国際的な議論の土台となったことから、Science Based Targets(科学に基づく目標、略称SBT)と呼ばれる。

     国際環境NGO「CDP」(本部・ロンドン)や「WWF」(世界自然保護基金)などが作るSBT事務局が、企業側から提出された目標を審査し、認定する。5~15年以内の比較的近い将来を目標年とし、原則として排出総量で設定することも求められる。

    2017年11月06日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP