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    聞きたい みどりの経済(3)炭素税が排出減を促す

    日本経済研究センター 岩田一政理事長

    • 1946年生まれ。70年、東大教養学部卒、経済企画庁(現内閣府)入庁。2003~08年に日本銀行副総裁、10年から現職。東大名誉教授。
      1946年生まれ。70年、東大教養学部卒、経済企画庁(現内閣府)入庁。2003~08年に日本銀行副総裁、10年から現職。東大名誉教授。

     世界が取り組む温暖化対策の枠組み「パリ協定」に基づき、2050年までに温室効果ガスの80%排出削減を目指す日本。大幅削減の切り札として、「カーボンプライシング」という新たな制度が検討されている。どのような仕組みで、暮らしにはどんな影響があるのか。この問題に詳しい日本経済研究センターの岩田一政理事長(71)に聞いた。

     カーボンプライシングは、その名の通り、炭素(カーボン)に価格を付ける(プライシング)ことによって、二酸化炭素(CO2)の排出を減らす行動を促す仕組みのことだ。大別すると、排出量に応じて課税する「炭素税」と、一定の水準以上に減らした排出量を売買する「排出量取引」がある。

     やり方は異なるが、排出を減らすと得をし、削減努力を怠ると損をする点は共通している。市場メカニズムを利用して低炭素社会の実現を目指すため、行政コストも安い。低炭素商品を生み出す技術革新も期待できる。

     環境省は今年6月から有識者による検討会を開き、導入に向けた議論を進めているが、「企業は自主的に取り組んでいる」など、反対意見もある。

     ノーベル賞受賞者ジョセフ・スティグリッツ教授らが所属する「カーボンプライシングリーダーシップ連合」は、パリ協定が掲げる「世界の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べて2度未満に抑える」との目標を達成するには炭素税が有用だと指摘。30年までにCO2排出量1トンにつき、発展途上国で50ドル(約5500円)、先進国では100ドル(約1万1000円)の課税を提言している。

     日本では炭素税に当たる「地球温暖化対策税」が2012年に導入されているが、課税額はCO2排出量1トン当たり289円で、海外で実施されている炭素税に比べると非常に安い。間接的に炭素に課税しているエネルギー関連税などを炭素税に組み替えたとしても、1トン当たり6000円程度。現状のままでは、発展途上国並みの対策にとどまっており、排出をさらに減らす効果があるとは言い難い。

     日本の産業界には「炭素税は国際競争上、不利になる」と懸念する声がある。しかし、私は国境調整措置を取れば済むと考えている。炭素税を日本よりも低く課していたり、全く課していなかったりする国からの輸入に日本の税率で炭素税を課し、逆に、炭素税の負担が低い他国への輸出には炭素税を還付する仕組みにすれば、国際競争力が衰えることはないだろう。

     一人ひとりの暮らしに目を向けると、エネルギーは食料と同様、必需品であり、炭素税の本格導入に伴い、低所得者ほど家計が圧迫される恐れがある。その点は消費税と性格が似ている。炭素税を導入する場合、国は炭素税による税収を一般会計として計上し、低所得の家庭に再配分する制度にすることが望ましいだろう。

     パリ協定からの離脱を表明した米国でも、共和党の重鎮ジェームズ・ベーカー氏らが民間の協議会を作り、炭素税の本格導入に向けて議論を進めており、炭素税や排出量取引の導入は世界的な流れになっている。大型台風や記録破りの豪雨の頻発など、温暖化の影響とみられる現象が国内外で相次いでいる。温暖化対策は待ったなしだ。日本も炭素税に、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度などの制度も組み合わせて実行することで、国際社会に貢献すべきだ。(社会部 中根圭一)

    カーボンプライシングリーダーシップ連合

     カーボンプライシングを推進するため、2015年の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で発足した国際的な有志連合。英名はCarbon Pricing Leadership Coalition(CPLC)。06年の「スターン・レビュー」で気候変動に伴う経済損失に警鐘を鳴らした英国のニコラス・スターン博士も、メンバーに名を連ねている。

    炭素税

     石油や石炭など化石燃料の使用に伴って発生する温室効果ガスの排出量に応じ、国が企業や個人に対して課す税金。化石燃料の使用やそれを利用して製品を作る際のコストを引き上げて化石燃料の消費を減らし、排出削減に結びつける効果が期待される。税収を、法人税や低所得者の所得税の減税に回したり、電気自動車を購入した人に還付したりしている国もある。

    排出量取引

     国や自治体が企業などに排出量の上限を「排出枠」として割り当て、上限を超過した場合、削減努力をして枠が余った他社から買うことができる制度。排出枠を買えば上限以内とみなされるが、余分な支出になる。二酸化硫黄を削減するため、米国で初めて導入された。日本ではオフィスビルなどを対象に東京都などが導入しているが、国レベルでは実施されていない。

    2017年11月27日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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