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    野生動物の交通事故防げ

    スマホが出没地域警告/「けもの道」整備

     野生動物の交通事故被害を減らすことを目指す取り組みが各地で広がっている。首都圏の一部でも事故は頻発しており、ドライバーに危険を警告するスマートフォンのアプリも開発された。道路をまたぐ動物用の橋を整備するなど施設面の対応も進んでいる。

     12月初旬の夕暮れ、事故などで負傷した動物を救護する民間団体「野生動物救護獣医師協会」の神奈川支部長を務める皆川康雄さん(50)の車に同乗して、神奈川県大和市の住宅地を通る国道246号を走った。交通量の多い片側2車線の本線に入ると、皆川さんのスマートフォンから音声が流れた。「タヌキが出没する時間帯です。注意して運転しましょう」

     「三井住友海上火災保険」と系列の調査研究機関「インターリスク総研」が開発した交通事故防止の無料アプリの新機能。野生動物の交通事故データを基に、事故が起きやすい季節や時間帯、天候などを分析。状況に応じて運転者に音声で注意を呼び掛ける。神奈川県内では、過去5年間で事故が多かった地域を割り出し、大和、横浜、横須賀、厚木の4市を対象に2016年からサービスを始めた。

     広さ42ヘクタールの公園「泉の森」を貫くように走る大和市の国道246号では、公園にすむタヌキが車にひかれる事故が多発している。皆川さんは「この辺りに野生のタヌキがいることすら知らない人も多い。音声で警告してもらうことで運転中に動物にも意識が向くようになる」と効果に期待する。

    希少種も犠牲

     交通事故は絶滅が心配される貴重な野生動物にとっても大きな脅威だ。

     沖縄県の西表島に生息する国の特別天然記念物イリオモテヤマネコの交通事故は昨年、過去最多の7件発生、7匹とも死んでしまった。長崎県対馬のツシマヤマネコも、16年度までの5年間で計42件の交通事故に巻き込まれている。いずれも、絶滅危惧種に指定され、生息数は100匹前後しかいない。

     沖縄本島北部に生息する飛べない鳥ヤンバルクイナは、マングースの駆除が進み、生息数は回復傾向にある。しかし、生息域の拡大に伴って交通事故も増え、10年以降、7年連続で30件以上の事故が起きている。

     これら3地域では、動物が道路に進入するのを防ぐ柵や動物用の迂回うかい路の整備、運転者に注意を促す標識の設置などの対策が取られているが、目立った効果は上がっていないのが現状だ。

     沖縄本島北部と西表島、アマミノクロウサギが生息する鹿児島県の奄美大島と徳之島は、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産候補地でもある。環境省は「世界遺産に登録されれば観光客が増えて交通量も多くなる。事故が増えないよう対策を強化したい」(希少種保全推進室)と警戒を強めている。

    イノシシなど利用

    • 圏央道の「茂原第一トンネル」。上部は緑地になっている
      圏央道の「茂原第一トンネル」。上部は緑地になっている

     13年4月に開通した首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の「茂原第一トンネル」(千葉県茂原市)は、高速道路に分断された両側の森林をつなぐ、人工の「けもの道」として整備された。全長75メートル、幅45メートルのトンネルはドライバーから見ればトンネルだが、動物から見れば橋。動物が通る橋の上には草木が植えられ、池も整備された。

     東日本高速道路の担当者らに案内してもらい、人の背丈ほどに茂った草木をかき分けて進むと、イノシシが土を掘り返した跡やタヌキのフンが見つかった。東日本高速道路と明治大学の調査によると、16年2月から約1年の間にイノシシ、タヌキ、野ウサギなど8種類の動物が利用していることが確認されている。

     道路建設に伴う環境影響の軽減策を研究する任意団体「道路生態研究会」代表幹事の園田陽一さん(41)は「付近の動物が頻繁に利用しているようだ。施設の整備だけで事故を100%防ぐことはできない。ドライバーの意識を変える取り組みも必要だ」と指摘している。(蒔田一彦)

    2018年01月01日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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