(中)切り捨て横行のツケ名木「吉野杉」を産出する奈良県東吉野村。標高700メートルの山に広がるスギやヒノキの林に、切り倒された樹齢50年の丸太が累々と横たわっていた。 1ヘクタール当たり8000本の密植と、枝打ち、間伐の励行が特徴の吉野林業の中心地。かつては細い間伐材も丁寧に集め、酒だるや割りばしに加工して使ってきた。今は、間伐材が利用されることはない。 吉野中央森林組合の河口肇さん(41)は「ここは林道に近く傾斜も緩い。こんな好条件でも、搬出コストがかさみ、もう間伐材は出せへん」とつぶやいた。 京都議定書で、日本は温室効果ガスの削減目標6%のうち3・8%を上限に、森林吸収量を使うことができる。ルール上、森林経営の一連の作業を行うことで、吸収能力を確保できる。なかでも間伐は、必須の作業だ。込み合った森林に光が差し込み、幹が太くしっかり育つ。下草が生え、風水害に強い森になる。 政府は2007〜12年に、例年の間伐面積に20万ヘクタール分を上積みした55万ヘクタールを毎年間伐すると決定。昨年は上乗せ分だけで500億円以上を投じた。しかし、毎年急ピッチで進む間伐のほとんどが切り捨てだ。 間伐材を林内に残す「切り捨て間伐」は1980年代から目立ち始めた。建設現場の足場や 切り捨て間伐の拡大と歩調を合わせ、不気味な現象も全国に広がる。切り株の断面に浮かぶ変色の形から、林業関係者が「ホシ」と呼んで恐れるニホンキバチの害虫被害だ。 四国山地のすそ野にある高知県 キバチはスギやヒノキの立ち木に卵を産みつけ、幹の内部を黒褐色に変色させる。数十年育てた樹木をじわじわと傷ものにし、価格を半値以下にしてしまう。 「30〜40年かけて育てても、これに取りつかれたらどうしようもない。材木がさらに買いたたかれる」。同じ被害に悩む近くの山林の持ち主(77)がうなるように話した。 日本福祉大学の福田秀志准教授によると、キバチは卵とともに幹に共生菌を送り込む。星形のシミは幼虫の成長を助ける共生菌が広がるのを防ぐため、樹木が防御反応を示した結果だ。 伐採直後の間伐材は防御反応がなく、共生菌と競合する他の菌類が少ないため、幼虫には格好のすみか。キバチが増え、周囲の立ち木にも卵を産みつける。 間伐材の有効利用は後回しにされ、病害虫の温床となって、林業再生の足元を揺るがしている。 (2009年6月29日 読売新聞)
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