(中)未知の領域 異なる評価エネルギー問題の研究者ら約1700人が所属する「エネルギー・資源学会」が今年1月、学会報の特集「地球温暖化・その科学的真実を問う」をウェブサイトで公開した。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」と同様に、近年の温暖化の主因を人為起源の温室効果ガスの増加に求める「IPCC派」と、自然変動など別の要因を重視する「懐疑派」の討議を、往復書簡の形で載せた。続編も3月5日に公開する予定だ。 これまで科学者の間ではほとんど無視されてきた「異論」を正面から取り上げて公開するこのような学会の試みは、異例だ。 企画した吉田英生・京都大学教授(熱工学・エネルギー工学)は、「温暖化が政治問題になるにつれ、メディアなどで、科学的議論には決着がついたかのような表現が増えたことに危機感を覚えた。本当に温暖化は確かなのか、純粋に科学の視点で再考したかった」とその趣旨を説明する。 討論の参加者は5人。IPCC派は、主流派の研究者らでつくる「懐疑派バスターズ」の江守正多・国立環境研究所温暖化リスク評価研究室長(気象学)が代表。懐疑派は、オーロラ研究で著名な赤祖父俊一・米アラスカ大学名誉教授、伊藤公紀・横浜国立大学教授(環境計測学)、草野完也・海洋研究開発機構プログラムディレクター(シミュレーション科学)、丸山茂徳・東京工業大学教授(地球惑星科学)が参加した。 懐疑派といっても、その主張=表=はさまざまだが、なかでも議論が白熱したのは、IPCCが温暖化予測の根拠としたコンピューターによる「気候モデル」の妥当性についてだった。「気候変動の重要なメカニズムに未解明な点が多いのに、モデルが実際の気候を予測できているといえるのか」というのが懐疑派の主張だ。 気候は、多くの現象が複雑に影響しあっているため、科学の分野のなかで最も予測が難しいものの一つだ。 たとえば「雲」も、温暖化への影響がよくわかっていない。雲は太陽光を遮るため冷却効果を持つが、種類によって逆に地上からの熱を吸収する温室効果も持つ。水蒸気や大気中の微粒子(エアロゾル)の量しだいで雲の性質は大きく変化するため、たしかに、その効果を気候モデルですべて正確に考慮するのは難しい。 このほか、伊藤さんは「気候モデルには、土地利用の違いなど、現実には大切なはずの地域的な要素がきちんと取り入れられていない」と指摘。 草野さんも「二酸化炭素説にこだわると、それ以外の可能性を追究する研究が発展しないのでは」という。 これに対し、江守さんら主流派はこう考える。未来の気候を物理法則に従って科学的に予測するには、たとえそれが完全無欠ではなくても、気候モデル以外に適当な手段がない。しかも、モデルの精度は改善されてきている。細かいことはさておき、「近年の温暖化は、人為的な二酸化炭素の増加が原因である可能性が高い」という見解をまとめられる水準には達している。IPCCの評価報告書は、現時点で得られている見解を、不確実な面も含めて多角的に評価した結果だ。 科学は、膨大な未知の現象を一つひとつ解明し続ける営みなので、どこまで行っても終わりがない。こうしてみると、IPCC派と懐疑派は、おなじ温暖化の科学を、それぞれ「ここまでわかった」とみるか、「これがわかっていない」とみるかで立場が違っているともいえる。 悩ましいのは、つねに不確かさを引きずる宿命にある「科学」を、社会的な出費をともなう温暖化対策の根拠としなければならないことだ。江守さんは最近、「これまで社会に対して、不確かさも含めた科学の姿を正しく伝える努力が足りなかった」とも感じている。 科学が発展していくためには、それまでの知を鵜呑(うの)みにしない「健全な懐疑心」は必須だ。その意味で、温暖化への懐疑そのものは、科学界のごくふつうの姿といえる。それがなぜ、社会に出ると、きわどい説までない交ぜになった懐疑本ブームになるのか。次回は、科学界を取り巻く温暖化懐疑論を、社会科学の視点から探る。(片山圭子)
(2009年3月2日 読売新聞)
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