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(下)「不確か」認め 懐疑論に対抗

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IPCCは、地球温暖化の影響は既に出ていると指摘している。海水に覆われたツバルの空港脇(左上)、後退したカナダのアサバスカ氷河(右下)。温暖化を説くゴア元米副大統領(左下)と江守さん(右上)

 現代の科学ですべてのことが解明できるわけではない――。本来は当たり前なこのことが、ときに声高に語られ、科学界の主流な考え方に異を唱える特別な主張として商品価値をもつことがある。

 地球温暖化の予測に不確かな部分が残っていることは、ここ数十年にわたって気候研究者は自覚してきた。これまでほとんど社会に伝わることのなかったその「不確かな部分」が、地球温暖化という言葉が広く日常生活に入り込んだごく最近になって、懐疑本ブームとして姿を現した。

 総合研究大学院大学の池内了教授(宇宙物理学)は、「『あしたではもう間に合わない』といった言葉がマスメディアに登場する。まるで全体主義のようだ。そういうものへ反発が出てくるのはよくわかる」という。そして東京大学の藤垣裕子准教授(科学技術社会論)は、一般市民が科学に対して抱くイメージと実際の科学とのズレが、懐疑論ブームの背景にあるとみる。

 藤垣さんによると、一般市民は科学が常に確実で厳密なものだと思っているが、現実の科学はそうではない=表=。不確かさを抱えた地球温暖化予測も、一般市民の受け止め方は「正しい」か「間違っている」かのどちらか極端になりがちだ。政治家や行政関係者、マスメディアの多くも、「一般市民」の側だという。

 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2007年に公表した第4次評価報告書では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスによってもたらされた」という見解が正しい可能性は90%以上であると表現している。つまり、この見方が間違っている可能性を自ら認めているのだ。

 藤垣さんはこれを「IPCCの誠実さ」とみる。池内さんは、「懐疑派は残りの10%を過大にとらえて、全部がウソだと言っている」と手厳しい。

 東京・新宿のジュンク堂書店のカフェで2月27日に開かれたトークショー。国立環境研究所の江守正多・温暖化リスク評価研究室長(気象学)が、約50人の聴衆に話しかけた。

 江守さんは、IPCCの見解に沿う「主流派」の主張を、こうして一般市民に解説し始めている。その際、予測の不確かさについて、きちんと説明する。さらに、そのような科学的なこだわりが、一般向けにわかりやすく説明しようとすると、とかく失われがちになることも強調する。

 科学技術振興機構の安井至・上席フェロー(環境科学)は、江守さんら「懐疑派バスターズ」のこうした活動を高く評価する。

 「地球温暖化問題に対する懐疑派の主張が社会に歓迎された理由のひとつは、いままで主流派の学者がちゃんと反論してこなかったことでしょう」

 池内さんは「疑似科学入門」(岩波新書)の中で、「地球は人間の体と並んで、単純な計算式が成り立たない複雑系の最たるもの」とし、地球環境問題を「科学が不得手とする問題」のひとつに挙げている。それでも、「だからといって、温暖化問題を先送りにするわけにはいかない。人類の未来を考えれば、予防原則に従って手を打たなければならない」と語る。

 江守さんらとともに「懐疑派バスターズ」を組む海洋研究開発機構の増田耕一・地球環境フロンティア研究センターサブリーダー(水文気候学)もいう。「私たち科学者は、地球温暖化予測の不確かさを減らす努力をしているが、それを完全になくすことはできないだろう。だが、事態の深刻さを考えれば、不確かさを考慮に入れつつ、対策を講じていく必要がある」

 科学は、つねに不確かさを抱えている。いま進められている温暖化対策にしても、それがじつは不要である可能性もあることを、IPCCは示している。

 地球温暖化にかぎらず、社会が何らかの決定の根拠に科学を使うなら、その見方が外れるリスクを同時に背負うことになる。地球温暖化の懐疑論ブームは、その自明の理をあぶり出したのかもしれない。(中島達雄)

予防原則
 科学的な因果関係の証明が不十分でも、人体や環境に重大で取り返しのつかない影響が出る恐れがある場合は、法的規制などの対策を取るべきだという考え方。「予防措置原則」とも呼ばれる。1970年代の初めにドイツで導入され、90年代から環境問題に適用され始めたが、経済活動が制限される場合も多く、非科学的との批判もある。水俣病や薬害エイズ、アスベスト問題などは、対策が遅れて被害が拡大した。一方で、イタイイタイ病はまだ原因がはっきりしていない段階で対策が講じられ、予防原則の数少ない成功例とされている。
2009年3月9日  読売新聞)

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