[豪・アフリカの現状]渇く穀倉地帯
世界的な穀物価格高騰の震源地となった2006年以来の豪州の干ばつ。最大の被害を受けたのは、国全体の農業生産の41%を占める同国南東部の穀倉地帯「マレー川・ダーリング川流域」だ。6月までの雨で一部で冬小麦の種まきが一斉に始まったが、ダムの貯水量は平年以下にとどまったまま。牧草の生育不良のあおりを受け、羊の“青田刈り”に乗り出す農家も出ている。(豪ニューサウスウェールズ州南部ヘイで 岡崎哲) 出荷を前倒し首都キャンベラから西に約500キロの農村ヘイで牧羊業を営むジェフ・チャップマン氏(48)の農場で6月30日、やせ細った約20頭の羊が毛を刈られ、マトン用に処分された。 同農場では、2年前に5000頭だった羊は3000頭にまで減った。干ばつによる牧草の生育不良がたたり、「羊毛や羊肉の品質低下が避けられない」として、出荷を前倒しする決断を迫られたのだ。 羊だけではない。大量のかんがい用水を必要とする、うどん用の小麦、麦焼酎の原料となる大麦、さらにコメも昨年までに生産打ち切りを迫られた。チャップマン氏の収入はこの6年で半減。「農業を始めて20年以上になるが、こんな干ばつは経験したことがない」と天を仰いだ。 豪州の干ばつで、農作物生産への悪影響や穀物価格の高騰とともに危惧(きぐ)されているのが、ラムサール条約に登録されているマレー川河口湿地帯の水位低下と環境破壊の問題だ。今年の湿地帯の水位は平年より1メートル近く低くなり、観測史上最低の海抜マイナス0・5メートルを記録。1400平方キロ・メートルの湿地帯の5分の1が干上がった。渡り鳥の数も激減し、湿地帯は「存亡の危機」にひんしている。 原油高も影響干ばつは、2007年末の総選挙で勝利したラッド労働党が、京都議定書の批准に慎重だったハワード自由党から政権を奪い、議定書を批准する背景ともなった。だが、世界的な原油高で燃料価格が上昇し、消費生活や産業の現場を圧迫している。排出量取引の導入がスケジュールに上る中、産業界にも農家にも新たな出費をきらう空気が強い。 湿地帯の水位低下は、干ばつの影響に加えて、かんがい用水の過剰配分問題も関係している。流域はほとんどが半乾燥地帯で、かんがい用水が農業を支える。しかし、世界的な食糧需要の拡大もあり、湿地帯の水位低下解消より農家への水供給が重視され続けてきた。 だが、かんがい用水の割り当てを削減すれば、農家にさらなる負担を強いることになるため、ラッド政権にとっては難しい選択となる。ラッド首相は3日、地元メディアに「(十分な)雨を降らせることは首相にもできない」と語った。 ラッド労働党政権は、排出量取引の2010年導入を目指すほか、20年までに総発電力の20%を風力や太陽光など再生可能エネルギーに転換し、50年までに二酸化炭素(CO2)排出量を2000年比で6割削減する目標を掲げている。年末までに計画を具体化する予定で、ポスト京都議定書を巡っては、中国、インドなど途上国の関与を条件に掲げている。 麦栽培、羊飼育に打撃世界の洪水25年で4倍に![]() 3日、豪州南部アデレードから南に約100キロのマレー川河口湿地帯では、干ばつで沼地がひび割れていた(グールワで)=尾崎孝撮影
世界各地で発生する洪水や干ばつなどの水関連災害は、増加し続けている。 土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センターの吉谷純一上席研究員らが1980〜2006年に発生した水関連災害を分析したところ、特に増えている傾向にあるのが、洪水とサイクロン、ハリケーンなどの風水害だ。 洪水被害は80〜82年の3年間で137件だったのが、2004〜06年は4倍近い542件、風水害も2倍以上の314件まで増えた。被害額も増加傾向にあり、04〜06年で約3000億ドルに達した。吉谷さんは「発展途上国では、人口増加で海抜が低い平野部に住民が密集する傾向にあり、被害拡大をもたらしている」と話す。 気候変動で今後、豪雨や渇水の頻度が増すと予想されており、「水関連災害の影響を受ける人口は、2050年までに20億人に達する恐れがある」と国連大学の研究グループは警告している。 今年に入ってからも、ベンガル湾で発生したサイクロン「ナルギス」が、5月にミャンマー南部のデルタ地帯を直撃して8万人以上の死者が出たほか、米国中西部の大雨によるミシシッピ川の増水で、10か所以上の堤防が決壊する洪水が発生した。 中国中部の山西省では、5月中旬からの少雨と黄河の流量低下などによる渇水で、50万人以上が飲み水不足に陥り、トウモロコシや綿の栽培にも影響が出ている。(科学部 野依英治) 「貧困の悪循環」に危機感・・・G8アフリカ支援北海道洞爺湖サミットの主要8か国(G8)とアフリカ諸国首脳らによる拡大対話で、急浮上したのがアフリカの農業への支援。背景には、気候変動の影響が指摘される洪水や干ばつの深刻化に伴い、アフリカで食料生産が不安定になっているという実情がある。アフリカをはじめ途上国の貧困撲滅を掲げ、2000年に国連が定めた「ミレニアム開発目標」の達成が難しいことも、国際社会の危機感を強める要因になっている。(河野博子、森太、小坂剛) サハラ砂漠以南を中心とするアフリカでは、干ばつや洪水などをきっかけとして、たびたび食料不足に陥ってきた。降水量が少なく、かんがい設備も不十分な乾燥地域は異常気象による影響が大きく、ただちに農業生産の減少を招く。 国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書(最新版)」によると、マラウイが2002年の干ばつで約500万人が緊急食料援助を必要とする事態に追い込まれたほか、ニジェールで04年に起きた干ばつとイナゴの大量発生で、全国民の5分の1が食料不足に陥った。異常気象による作物減収、雇用喪失、財産の破壊、食料価格の高騰――。報告書は、異常気象を契機に貧困世帯がさらに厳しい状況に追い込まれていく「貧困の悪循環」を指摘した。 こうした傾向は将来の気候変動によって、さらに加速する恐れがある。昨年11月に「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)がまとめた第4次評価報告書は、アフリカでは気候変動により水不足が深刻化し、「20年までに、雨水に頼った農業で収量が最大50%減少するなど、農業生産が非常に厳しくなる」などと予測している。 バイオ燃料用のエタノール増産も、アフリカの食料生産の不安定化に追い打ちをかけている。 環境省が今月まとめた報告によると、世界の燃料用エタノールの生産量は、05年で年間3134万キロ・リットル。06年には3800万キロ・リットルに達すると見られ、5年で倍増の勢いだ。その原料のほとんどは、トウモロコシやサトウキビで、世界的な食料価格高騰の一因となっている。アフリカでも、食料用からバイオ燃料用への農地転換が進んでいる。 国連の「ミレニアム開発目標」は15年までに貧困や飢餓に苦しむ途上国の人口の割合を半減することなど、18の具体的な到達目標を定めた。ところが、「5歳児未満の死亡率を下げる」という目標に対して、サハラ砂漠以南のアフリカでは5歳にならないうちに死亡する子供が依然として6人に1人に上るなど、改善は思うように進んでいない。 この日の拡大対話では、欧州委員会のバローゾ委員長が「ミレニアム開発目標が再び注目されている」と指摘し、同目標の達成に向けて国際社会が一層努力すべきだと主張した。 今年は、2000年から15年までの中間年に当たるため、9月の国連総会にあわせてアフリカ支援に関する会合が開かれ、ミレニアム開発目標達成について議論される見通しだ。 農民が望む援助をアフリカのNGOG8に注文「貧しい農民の日々の苦闘を世界のリーダーたちは理解し、手助けしてほしい」「主要先進国は口約束を重ねるが、履行していない」。北海道洞爺湖サミットが開幕した7日、留寿都村の国際メディアセンターでアフリカと日本のNGO(民間活動団体)が記者会見し、アフリカ諸国への支援強化を約束した主要8か国(G8)に対し、厳しい注文をつけた。 会見したのは、ザンビアのNGO「グリーン・リビング・ムーブメント(緑に生きる運動)」のジョイス・ムワンジェさん(47)ら。ムワンジェさんはザンビアの農民で、毎朝7人の子供たちを学校に送り出した後、夫と畑に出る。「3年前から、畑の土の中に窒素を固定する働きをする植物を植え始めた。メイズ(トウモロコシの一種)、キャッサバ、カボチャ、サツマイモなどなんでも良くできるようになった」と、持参した作物のかけらを手のひらにのせて説明した。 畑の作物の間に植えている植物は4、5種類。ムワンジェさんは「畑の土を元気にするほか、家を建てたり棺桶(かんおけ)を作ったりする建材にも使え、夜道を歩く時のたいまつ代わりにもなる」と、食料増産や生活改善のために地道な努力を重ねていることを強調。その上で、「我々農民の声を聞いて何が必要か、先進国は一緒に考えてほしい」と訴えた。 (2008年7月9日 読売新聞)
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