(下)国と地元、認識にズレすれ違い「トキの住める環境作りには膨大な時間とお金、住民の意識が必要。佐渡に住んでくれれば、自分たちが守ってあげられるとの思いが島民にはある」 今月13日、本州に渡った3羽を捕獲して連れ戻すよう、県と共に環境省に要望した佐渡市の高野宏一郎市長は語気を強めた。 放鳥トキへの対応を巡り、県と佐渡市が国に要望を行ったのは2度目。雌のトキ1羽の死が確認された昨年12月にも、原則給餌を行わないとする環境省の方針は「非情」だとし、柔軟な給餌の実施を求めた。 野生復帰を巡る国と地元自治体との“すれ違い”の背景には、「トキは佐渡のもの」(高野市長)という地元の強い思い入れがある。 佐渡市は2005年から、ビオトープなど餌場づくりに取り組む農家やNPO(非営利団体)などを助成、島内には約100ヘクタールの餌場が造成された。年間観光客が最盛期の半分の60万人台を割り込む中、トキを観光の新たな起爆剤にしたいとの思惑もある。昨秋初めて収穫された、トキの餌場となる水田で栽培された佐渡産コシヒカリ「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」は約1500トンを完売し、農家に希望を与えた。 これに対し、環境省は、「自然下での動きに関する情報を蓄積し、計画を進めることが重要」(星野一昭野生生物課長)とする。 日本産トキの絶滅を経験した佐渡島民にとって、トキとの共生は積年の夢だった。しかし、岩浅有記自然保護官は「(今回の)試験放鳥の最大の目的はトキの基本的な生態を明らかにすること。繁殖は『望ましい』が、『ねばならない』ではない。現在、トキは中国に1000羽、国内でも100羽を超えており、状況は全然違う」と国と地元との認識のズレを指摘する。 「社会的放鳥」へこうしたすれ違いについて、トキ野生復帰専門家会合座長の山岸哲・山階鳥類研究所長は「環境省や私たち専門家(の関心)は『生物的放鳥』に偏りすぎていた」と語る。これまでの野生復帰計画を、生物学的見地のみから進めてきたとの反省だ。 山岸所長は「地元が求めているのは、トキの放鳥をどのように経済の活性化につなげ、より住みよい地域を作っていくかということだ」と指摘し、今後は地元の理解を得ながら計画を進めていく「社会的放鳥」の視点が不可欠とする。高野市長も「トキを観光、産業振興につなげることで、野生復帰への島民の理解も得られる」と訴える。 新潟大学は、生息環境の整備だけでなく、住民の意識調査や観光、医療支援などを行う「超域朱鷺プロジェクト」を4月から本格始動する。プロジェクトの統括リーダーを務める山岸所長は「トキを巡る様々な対立、葛藤(かっとう)を解決出来なければ社会的放鳥は成し遂げられない。トキとの共生をもとにした佐渡島の未来像を探っていきたい」と話している。(この連載は、中島慎一郎、長田洋典が担当しました) (2009年3月28日 読売新聞)
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