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    若年層にアピール、「遊べる」広告~「キンチョウ」

    大阪本社経済部 田畑清二

     真っ黒なページが、朝刊紙面の中で、圧倒的な存在感を放っている。「KINCHO(キンチョウ)」のブランド名で知られる大日本除虫菊が5月27日の読売新聞朝刊に出した殺虫剤「キンチョール」の全面広告だ。

    • 5月27日朝刊の全面広告
      5月27日朝刊の全面広告

    「超難解折り紙。」に挑戦してもらう

     下部にキンチョールの商品写真こそあるものの、一見すると何の広告か分からない。よく見ると、黒塗りの中には、細い白線が幾何学模様を描いていることに気がつく。

     「超難解折り紙。」

    • 完成したゴキブリの折り紙
      完成したゴキブリの折り紙

     このコピーで、全面広告が折り紙になることが分かる。黒塗り部分の縁を切り取って、白線を頼りに折り進めていく。広告には、何ができるか一言も書かれていない。地道に折っていけば、できあがる折り紙は、ゴキブリだと気づくことになる。

     「超難解」というだけあって、完成までかかる時間は普通の折り紙の比ではない。キンチョウがインターネットで公開している折り方の見本を示した動画は約55分。実際には動画を止めながら折る必要があるので、1時間30分や2時間かかったという人も多いようだ。

    • キンチョール
      キンチョール

     なぜゴキブリなのか。キンチョールはスプレー式殺虫剤で、ハエや蚊を退治できるものとして有名だ。ただ、ゴキブリやノミなど他の害虫にも効果があることは意外と知られていないことが課題だった。大日本除虫菊の宣伝部課長の小林裕一さん(52)は「ゴキブリにも効く万能スプレーなんだということを伝えたかった」と話す。

    新聞は起爆剤、SNSに拡大狙う

    • 異色の広告を担当した(左から)電通の広瀬泰三さん、古川雅之さん、大日本除虫菊の小林裕一さん
      異色の広告を担当した(左から)電通の広瀬泰三さん、古川雅之さん、大日本除虫菊の小林裕一さん

     完成まで1時間かかる折り紙。広告を提案した電通関西支社クリエイティブディレクターの古川雅之さん(47)は、掲載日にも気を使った。折り紙に時間がかかることを考慮して、土曜日の朝刊を指定した。平日だと、広告を見ても折り紙をする時間がないからだ。

     異色の広告の狙いの先はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。掲載後には、フェイスブックやツイッターには、「まさかのゴキブリ」「何てものを出したのか」という写真や動画の投稿が相次いだ。中にはできあがった折り紙のゴキブリにモーターを付けて動かしてみる人もいたという。

     目立った感想は「リアル過ぎる」だ。完成品を見ると、確かに気持ち悪い。足の付け根や、触角の部分も本物そっくりだ。“設計図”は折り紙ギャラリー「おりがみはうす」に依頼して、特別に作った。もっと簡単なゴキブリの折り紙もできたというが、電通関西支社コピーライターの広瀬泰三さん(39)は「やるからには、普段見ない、ゴキブリの裏側のリアルさにもこだわった」と話す。

     広告を提案したのは電通だが、大日本除虫菊の小林さんは「これはおもしろいやないか」とすぐに食いついた。目指しているのは「無視されない広告」だ。「新聞は起爆剤。紙をきっかけにSNSに広げていくことができるのでは」と考えた。

    2年前にも「蚊」をつないで話題に

     実は、2年前にも、答えを見せずに読者に取り組んでもらう広告を出し、ツイッターなどで好評を得たことがあった。2015年6月6日から3週連続で出したキンチョウの新聞広告だ。

    • 2015年6月6日朝刊の広告。3週シリーズの第1弾
      2015年6月6日朝刊の広告。3週シリーズの第1弾

    • 蚊をつなぐと「買って」の文字が出現
      蚊をつなぐと「買って」の文字が出現

     一見すると、蚊がたくさん並んでいるだけの図に見える。よく見ると、一部の蚊には数字が書かれており、上部には「蚊を数字の順につないでみましょう」とある。鉛筆などでつないでいくと、文字が浮かび上がる仕組みだ。3回の広告はそれぞれ、「買って」「ひま?」「商品→」という文字になる。

     ゴキブリ広告と共通するのは、数ある広告の中から、キンチョウの広告をよく見てもらいたいという思いだ。近年、百貨店や自動車メーカーも顧客に商品や物語を体験してもらう「コト作り」を重視している。「広告での滞在時間を長くしたい」(古川さん)という考えは、同じものを目指しているといえる。

    ロングセラーを若者にも売る工夫

    • #050
      #050

     殺虫剤の購買層は高齢者が多くなっている。一家に1個、必ず買ってくれる層はいるが、ブランドの維持発展のためには、若い人へのアピールも重要になる。1934年発売のロングセラー「キンチョール」も例外ではない。

     ゴキブリ折り紙という一風変わった新聞広告の狙いも、若年層のファン作りだ。「ロングセラーにあぐらをかかず、常に新しいことを発信したい」と小林さんは話す。(大阪本社経済部 田畑清二)

    ◆大日本除虫菊
     1885年、和歌山県のミカン農家出身だった上山英一郎が、ミカンの輸出を行う「上山商店」として創業した。福沢諭吉の紹介もあって米国人から除虫菊の種を得て、蚊取り線香の製造に乗り出す。
     1890年に世界初の棒状蚊取り線香を発売した。妻の着想も得て、より丈夫で長く燃える渦巻き型の蚊取り線香を発売したのは1902年だ。その後、除虫菊の栽培は広がり、産地となった広島県尾道市の亀森八幡宮境内にある除虫菊神社では、上山氏を祭神として祭っている。
     主な商品には「キンチョール」のほか、「金鳥の渦巻」「虫コナーズ」「タンスにゴンゴン」などがある。従業員数は484人(2017年1月末現在)。本社は大阪市西区。ウェブサイトは こちら

    2017年07月20日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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