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    金正男氏殺害 「北」恐怖政治の残虐さ強まる

     独裁者による恐怖政治は、とどまるところを知らない。

     マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男氏が殺害された。地元警察が、容疑者として女2人を逮捕した。

     マレーシア政府は、死因は不明と発表したが、韓国政府は、北朝鮮の工作機関が毒殺したとの見方を示した。事実とすれば、マレーシアの主権を侵害する重大な国家犯罪であり、許し難い。

     韓国情報機関によると、金委員長が最高指導者となった5年前から、工作機関は暗殺指示を継続的に受けていた。

     2012年に試みた際は未遂に終わり、正男氏は金委員長あての書簡で、自身と家族の助命を乞うたとされる。暗殺への執着は、金委員長の冷酷かつ残虐な体質を改めて鮮明にしたと言えよう。

     正男氏は、金正日総書記の長男で、一時は権力継承が有力視された。01年に日本に不法入国しようとして退去処分を受けた前後に、後継レースから脱落した。近年は、北京やマカオ、東南アジア諸国を転々としていた。

     かつて、正男氏が「3代世襲には反対だ」と語ったことがメディアで報じられた。金委員長は正男氏を体制の潜在的脅威とみなし、除去を図ったのではないか。

     軍や党の幹部を次々と粛清するのが、金委員長の権力維持の手法だ。1月には、秘密警察のトップであり、体制の柱と目されていた金元弘国家保衛相を解任し、その部下を多数処刑したとされる。

     強引な国内引き締めに、エリート層の反発が強まっている。昨年夏には駐英公使が韓国に亡命したほか、昨秋には北京の北朝鮮代表部に所属する保健省出身幹部の亡命が判明した。

     金政権が正男氏暗殺で離反の連鎖を防ごうとした可能性もあろう。万一、正男氏までが韓国に亡命していれば、反体制運動を勢いづかせる恐れもあった。

     注目すべきは、事件が対中関係に与える影響である。

     金委員長は13年、叔父で中国とのパイプ役だった国防委員会の張成沢副委員長を、国家転覆を画策した罪で処刑した。中朝関係を冷え込ませる原因となった。

     習近平政権は核ミサイル配備へと暴走する金政権に手を焼く。

     北朝鮮の体制が変動する場合は、正男氏が金委員長の後継候補になり得ると考えて、庇護ひご下に置いていたとすれば、殺害されたのは中国にとっても誤算だろう。

    2017年02月17日 06時07分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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