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    名古屋議定書 批准を生態系保全の契機に

     地球上の豊かな生態系は、人間社会に様々な恵みをもたらしてくれる。議定書の批准をきっかけに、生物多様性の大切さを再認識したい。

     政府が名古屋議定書を批准した。2010年に名古屋市で開かれた生物多様性条約締約国会議で採択された国際ルールだ。

     遺伝子の働きにより、植物や微生物が作り出す有用成分は、古くから薬品や化粧品、食品などに広く活用されてきた。議定書は、遺伝資源を基にした製品の利益を公平に配分するよう定めている。

     利益配分の典型例は、15年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏の研究だ。国内の土から見つけた菌を元に、共同研究先の米製薬企業が寄生虫の治療薬を開発し、大村氏側には特許料約250億円が支払われた。

     問題なのは、途上国に自生する植物などの遺伝資源を、先進国の企業が利用するケースだ。

     現地で同意を得ないままに、薬草などを採取し、製品化することは少なくない。途上国側には、「利益が全く還元されない」といった不満が根強くある。

     富を生み出す遺伝資源を持続的に活用していくためには、提供国と利用国間の適切なルールが必要だ。公平な利益配分は、双方の対立を避けるために欠かせまい。

     遺伝資源の研究開発を目指す企業や大学などは、提供国側と利益配分の在り方について契約を結び、その経過を自国政府に報告する。それが名古屋議定書の大枠だ。14年に発効し、既に約100か国が批准している。

     対象となる遺伝資源の範囲や、政府に提出する報告書の内容、違反した場合の罰則の有無などは、各国が独自に規定する。日本は15年までの批准を目指したが、国内での指針作りが遅れていた。

     国内の研究者や企業は、手続きが煩雑になるのを嫌い、緩やかな規定を求めた。結果として、強制力のない指針となった。

     自由な研究開発を促進する観点からは、穏当な対応だろう。他国の状況を見極めながら、柔軟に見直していくべきだ。

     筑波大学は3月に、メキシコと議定書に基づく契約を結んだ。中米原産のウリの品種改良法などを共同研究する内容だ。

     現地の生態系の保全を重視し、地元農業に成果を還元することを目指す。利益配分の手法も、研究テーマに盛り込んでいる。

     途上国との共同研究は、国際貢献の有効な手段である。積極的に取り組みたい。

    2017年06月19日 06時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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