よみうり入試必勝講座 WITH代々木ゼミナール




2009年プレ号
 
この講座のねらい
 これから一年間、大学入試を目指す受験生のみなさんを対象に、小論文の講座を行うことになりました。どうぞよろしくお願いします。素材に使うのは、読売新聞に掲載された記事や論説です。今回はプレ講座ということなので、「小論文ってどんな文章だかよくわかんないや」とか、「新聞もなんとなく眺めてはいるけど、それほど熱心には読んでないし、よくわからない記事もけっこうある」という人も大歓迎です。今回はとにかく一年間走りはじめるにあたっての準備運動、柔軟体操だと思って、気楽に読んでみてください。では、さっそくはじめることにします。


新聞と小論文
 新聞を使った小論文の講座をはじめるにあたって、まず新聞と小論文の関係を考えておきたいと思います。
 新聞とはなんでしょうか。一言で答えるのはなかなかむずかしい問題ですが、それが「事実を伝える」ものであることはたしかです。ある事件が起きた。それがいつ(=When)、どこで(=Where)、だれが(=Who)、なにを(=What)、なぜ(=Why)、あるいはどのように(=How)起こしたものなのか、それを報じるのが新聞の第一の仕事です。新聞記者の人はつねにこの5W1Hを意識して文章を書いていると言います。
 新聞で報じられた事実を知った時、人はそれについてさまざまなことを考えます。その考えを単なる断片的な感想としてではなく、ひとつながりのまとまった意見として比較的短い字数(平均的には600〜1200字というところでしょうか)で書いたら、そしてその意見が論理的に筋道の通ったものであれば、すでにその文章は「小論文」になっているといえます。とりあえずはそう考えておいてください。
 まず事実がある。それをなるべく客観的に報じようとする新聞がある。それを読んで、さまざまな感想をもち、それを論理的にひとつながりの意見として文章化することができれば、それが「小論文」になる。整理するとそういうことになります。


「考える」ことを考える
 小論文とは自分の考えを論理的に述べるものです。ここで「論理的」ということばが気になりますが、それについては次回以降じっくりと考えることにして、まずは「考える」ということそのものを考えてみましょう。とりあえずなにかを考えない限りは、小論文にはならないわけです。ではここらでちょっと軽いトレーニングをしてみましょうか。みなさん、いまから3分間あげますから自由に「考えて」みてください。いいですか。はい、スタート。

 「おい、おい、急に何を言いだすんだよ。それに何を考えればいいんだか、ぜんぜんわかんないじゃないか」

 そう思った人はいますか。あなた、そう思った?はい、あなたは正常です。そうですね、いきなり誰かに「考えろ」といわれても、何をどう考えていいのか、わかるわけがありません。でもはじめて小論文を書く時に、こういうふうに「何をどう考えていいのかわからない」状態で頭がフリーズしてしまう人がよくいるんです(フリーズしているわりには、額に脂汗がにじんでいたりしますが)。


小論文と料理
 私はそういう人に向かって、よく「小論文と料理」の話をします。それは次のようなものです。
 小論文を書くのは料理を作るようなものなんだ。料理を作るためにはまずどうする?そうだね、スーパーかどこかへいって材料を買ってくる。そして何の料理を作るか、メニューを決める。次に材料を下ごしらえして、調理を行い、最後に皿に盛りつけて、はい、できあがり。これが料理の作り方です。
 小論文も基本的には同じ。まず材料をそろえる。でも小論文の材料っていったいなんだろう。小論文が自分の考えを書くものだとすると、その考えの素材になるものはなにか。それは大きく言えば、その人の経験でしょう。直接的な経験もあれば、本や新聞で得た間接的な経験もある。もしも頭のなかに冷蔵庫があったとしたら、そのドアを開ければ人それぞれのいろんな経験が入っているはずです。そして、その経験がみずみずしく新鮮なものであればあるほど、いい「考え」が生まれる可能性が高い。それは冷蔵庫のなかに新鮮な野菜やお肉が詰まっていると、おいしい料理ができる確率が高まるのといっしょです。だから、まず頭のなかの冷蔵庫に新鮮な食材を入れておくように努めること、これがいい小論文を書くための第一歩です。


頭のなかの冷蔵庫
 頭のなかの冷蔵庫に新鮮な経験を入れておく。それが大事なことはわかるけど、具体的にどうしたらいいかわからなければ、このアドバイスは役に立ちません。では、こう考えましょう。いま、新鮮な素材を自宅まで毎日、配達してくれるサービスがあったとしたらどうでしょう。毎日、毎日、宅配で鮮度のいい素材を自宅まで運んでくれる。その中から自分の食べたい(考えたい)材料を選んで、冷蔵庫に入れておく。このサービスを利用すれば、常時新鮮な素材をキープしておくことができます。そんなサービスがあればいいとは思いませんか。

 でも、そのサービスはすでに存在しているのです。おそらくあなたのおうちでもそれを利用しているはずです。え、利用してないって。おかしいな。そんなはずはないんですが。

 さきほどの話を思い出してください。今回のテーマは「新聞と小論文」です。新聞が報じる事実にもとづいて自分の考えを述べる、そうすれば小論文になる。そういう話をしました。そして、自分の考えの素材になるのは、自分自身の直接、あるいは間接的な経験だともいいました。

 もうわかったでしょう。自分でものを考える時に、その素材となる新鮮な情報を毎日自宅まで届けてくれる宅配サービス。それが「新聞」なのです。それを通して、さまざまな事実を知り、それについてのさまざまな意見を知る。それを素材として、いろいろなことを考える。そうすることで徐々に自分自身の意見が生まれ、それを文章化することで小論文を書く力が高まる。そういうことなんですね。

 では、ここである新聞記事をとりあげて、実際にそれをどういうふうに料理すれば小論文になるのかということを考えてみましょう。


自殺者、1月は2645人…いのち守る動き広がる
 警察庁は5日、1月に全国で自殺した人は2645人だったと発表した。
 経済環境の悪化で自殺者数が増える恐れがあることから、これまで年1回発表していた自殺者数について初めて月別の数を公表した。一方、企業の決算期にあたる今月は、経営難を理由にした自殺が増える恐れもあることから、パトロールを強化したり、支援窓口を検索できるホームページを開設したりするなど、いのちを守る動きが広がっている。
 同庁によると、自殺者のうち男性が1894人。都道府県別では東京都が255人と最も多く、次いで大阪府159人、埼玉県155人、神奈川、愛知県138人だった。
 国内の自殺者は1998年以来10年連続で3万人超を記録。98年は、前年に金融不安が広がり、決算期の3月に自殺者が急増。今年も経済環境が悪化していることから、関係者は危機感を募らせている。
 自殺が多いことで知られる福井県坂井市の東尋坊では、自殺対策に取り組むNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)が、昨年11月以降の4か月間で19人の自殺志願者を保護した。例年は年間20〜30人で、茂代表は「信じられないハイペース。元派遣社員などこれまであまり見なかった若者が増えている」と話す。
 昨秋に保護した20歳代の元派遣社員の男性は期限前に契約解除され、保護時の所持金はわずか数百円。茂代表はボランティアら80人体制でパトロールを強化しており、「一人でも多く救いたいが、ボランティアではその後のフォローに限界」と行政に支援を訴える。
 山梨県の青木ヶ原樹海でも、地元自治体やタクシー協会などが、声かけボランティアを養成する講座を開催したり、樹海の入り口に防犯カメラの設置を進めたりしている。
 NPO法人「ライフリンク」(東京都)も昨年12月、インターネット上に、悩みの内容ごとに、適切な支援団体や行政窓口を検索できる「ライフリンクデータベース」を開設。清水康之代表は「自殺者の7割が事前に何らかの相談機関に相談したとのデータがあり、対策を講じれば必ず防げる」と力を込めて話している。

(読売新聞09年3月6日(金)朝刊)

 初回にしてはずいぶん重いテーマですが、これもまた私たちの生きている社会の「現実」であり、「事実」です。わが国の1年間の自殺者数が10年連続で3万人を超えたというニュースはどこかで耳にしたことのある人も多いでしょう。この記事では、これまで年間単位だった警察庁の自殺者数の発表が今回から1ヶ月単位になったこと、そして今年1月の自殺者数が2645人だったことが報じられています。

現実をリアルに受けとめる
 この記事を読んで、何を感じましたか。「ふーん、けっこう多いんだな」、そう思った人もいるかもしれません。でもただそれだけでは、そこから自分の考えが生まれてくることはありません。この記事にもとづいて「考える」ためには、まず、この問題を自分自身の問題として(他人事としてではなく)、リアルにとらえ直す必要があります。そのためにはどうすればいいでしょうか。
 その手がかりとして、さきほどの記事について、次の問題を解いてみてください。とても簡単な算数の問題です。


問題
問1 日本全体で、1月には1日あたり何人の自殺者が発生したことになるか、計算せよ。(小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを答えること)
問2 東京都で、1月には1日あたり何人の自殺者が発生したことになるか、計算せよ。(小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを答えること)


問1 85.3人
問2 8.2人

 1年間で3万人以上の人が自殺していると聞いても、ただなんとなく「多いな」としか感じません。でも、1年間を1月単位にし、その1月をさらに1日単位に換算すると、この国では毎日85人もの人が自ら命を絶っていることがわかります。日本全体では広すぎるというのであれば、自分の住んでいる都道府県(ここでは仮に東京都としてみます)で考えてみましょう。すると東京都だけで1日8人が自死を選んでいる。しかもこれはたまたまある1日がそうだったというのではありません。一年365日、これだけの人が亡くなっているのです。1年の自殺者数3万人超という数字はこういう「現実」を意味しているのです。

 ちなみに交通事故で1年間にどれだけの人が亡くなっているか、わかりますか。日本中にこれだけの車が走り、毎日必ずどこかで事故が起こっている。さぞかし死者数も多いだろうと思うでしょうが、警察庁発表によれば、08年の交通事故死者数は5155人。1日あたりに換算すると14.1人。これだってけっして少ない数とはいえませんが、先ほどの自殺者数と比べると、その数は約6分の1にすぎません。

 以上の「事実」から、あなたは何を感じますか。

「そんなにも多くの人が、いったいなぜ、……」

 そう思うのは自然です。一方では世界第二位の経済大国といわれ、豊かな国といわれる日本で、毎日85人もの人が自ら死を選んでいる。なぜ、そんなことが起きるのか。そういう「なぜ」がこころの底のほうからわき上がってくるのは当然のことです。

 そして、そう思った時、あなたはすでに「考える」ことをはじめているのです。

 新聞を通して事実を知る。そして、その事実のもつ意味を自分なりにリアルに感じとる。−このことを通して、あなたの頭の中には「考える」ための素材としての「現実」がはっきりと意識されます。

 そして、その事実のもつ重みに正面から向き合った時、あなたのこころのなかには「なぜ」「どうして」「どうすれば」という問いが自ずから浮かび上がってくるはずです。その問いを解こうとして、自分なりに懸命に頭を働かせること。それが小論文における「考える」という作業であり、小論文を書くということなのです。

 ただ、考えておいてほしいのは、この「なぜ」にはかんたんな答はなかなかみつからないということです。

「小論文なんて、こんなにかんたんなものなんだよ」。世の中にはそういう本があふれているように思います。でも、私はこの講座を通して、そういうことをみなさんに伝えようとは思いません。

「小論文には特殊な才能は必要じゃない。でも一定のトレーニングを積むこと、そして『考える』ことの深さを味わうことは必要だ。『考える』ことって奥行きがあって、けっこう面白いことなんだよ」

 私が伝えたいのはそういうことです。

「そんなにも多くの人が、いったいなぜ、……」

「事実」にもとづいてこの疑問を思い浮かべること、それが「考える」ことの入口であり、その答を探ることが「考える」世界に足を踏み入れることである。

 今回、私が言いたかったのはそういうことです。

 初回から重い話になってしまいましたが、新聞を通して事実を知ることの重要性、それを自分の問題としてとらえ直すところから「考える」作業がはじまるということ。このふたつのことを理解してもらえれば幸いです。

 次回からは、具体的な問題を通して、小論文の考え方、書き方についてさらに考えていきたいと思います。
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