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(22)「たばこ1回で勘当か」◆カメの涙8日夜、広島県尾道市公会堂。総決起大会に姿を現した元建設相・亀井静香は、泣いていた。 両目は真っ赤にはれ、いかつい顔は涙でびしょぬれ。ざわめく支援者に両手を振りながら、口を真一文字に結んで嗚咽(おえつ)をこらえた。 「政治家、亀井静香。まさに正念場です。のるかそるかの戦い。ありがとうございます。郷土のためにがんばります」 壇上から礼を述べる亀井に向けて、2000人の聴衆が、国民新党のイメージカラーのオレンジ色のハンカチを振った。 小泉改革批判の急先鋒(せんぽう)である亀井は、郵政民営化関連法案に反対票を投じ、自民党離党に追い込まれた。国民新党を結成し、地元で四半世紀ぶりの「どぶ板選挙」が続く。 自民党広島県連は、今回衆院選で他党候補を支援しないよう党員に通知した。だが、尾道市にある亀井の選挙事務所には、自民党系の市議が大手を振って出入りし、医師連盟など自民党支持団体の推薦状が所狭しと飾られていた。 「亀井先生が1番、仕事しおる。応援するのは恩返しと、これからも仕事をやってもらいたいからだ」 そういう元市議会議長・神田誠規(76)は、「仕事」の中身をこう説明した。 「亀井さんは建設相や運輸相の時代、局長を自由に動かしていた。陳情に行けば局長がちゃんと対応してくれる。中国横断自動車道の整備も他の地域の6倍のスピードだ。特別交付税も国道も県道も市道も、6区については全部亀井さんのおかげや」 6区内にも、亀井の政治手法に批判的な声はあるが、経済低迷の中、声は大きくならない。亀井の支援者で工務店を経営する玉川忠義(64)は言う。 「建設業の従事者が産業人口の半分近い地区もある。どんな工事でも持ってこないと、建設業者が倒産して雇用がなくなる」 無所属で出馬したライブドア社長・堀江貴文は9日、亀井の地盤の3次市で街頭演説した。 「今までの政治家、政治システム、ありがとう。これからは僕たちの世代に任せてもらいたい」 聴衆の女性会社員(57)は、「分かりやすいし、意外と庶民的でさわやかだった。今まで選択肢がなかったから亀井さんだったけど、今回は……」と言う。 堀江は「郵便貯金や簡易保険で集めた金のばらまき先を決めてきたのが、族議員と官僚だ」と批判。公示前は、亀井が建設相時代に作ったダムやつり橋を視察し、「無駄な公共事業は廃止すべきだ」と訴えた。 「知名度だけじゃあ、全然太刀打ちできないのがわかった」と語る堀江は5日以降、「比例は公明党に」と言い出した。「僕は比例に出ていない。お互いウィンウィン(ともに栄える)の関係だから」と公明党の組織票に秋波を送る。 民主党前議員の佐藤公治にとって、堀江の出馬は脅威だ。佐藤に集中していた「反亀井票」が、堀江と佐藤に分散されそうだからだ。 8日夜、尾道市内の個人演説会で、佐藤は200人の支持者に訴えた。 「私は亀井さんのようにバスで支持者を動員することはできません。でも、これで十分です。牛や象が沈み、小さなネズミこそが民の声だと分からせてやろうじゃありませんか」 ◆2度目のねじれ空には秋のいわし雲が浮かんでいた。 「郵政民営化を突破口に改革を推進する候補は、この静岡7区では片山さつきだけでございます」 9日午前、自民党新人の片山は、浜松市のJR舞阪駅前に立った。小泉に「改革のマドンナに」と出馬を促されてから4週間。「もう2巡目です。回ってないところはない」。量販店で買ったピンクのポロシャツに赤の鉢巻きを締めて“庶民派”を演出している。 自民党本部は、郵政民営化関連法案に反対し、無所属で出馬した前議員・城内実に対し、女性初の財務省主計官だった片山をぶつけた。しかし、党県連は城内を「県連推薦」とし、真っ向から対立している。 「県連にも地域にも『城内という議員はおれたちが作った』という思いがある」 県連副会長の県議・浜井卓男(62)は言う。 城内は2002年に県連の公募に応じ、7区の党支部長になった。当時の民主党議員・熊谷弘の対抗馬としてだ。が、その後、熊谷は保守新党を結成して自民党と連立し、党本部は03年衆院選では熊谷を推薦した。無所属出馬を強いられた城内は、「県連推薦」を得て熊谷を破り、初当選した。「無所属、県連推薦」の戦いは今回が2度目だ。 自民党本部は、浜松の片山事務所に党本部職員を常駐させ、「直轄態勢」で選挙を仕切る。有力企業への働きかけも県連の頭越しだ。7区で約1万票を動かすとされる自動車メーカーのスズキ。今回も城内を支援しているが、県議らによると、スズキ会長・鈴木修(75)には公示前、元運輸相の党総務局長・二階俊博から「片山を支援してほしい」と要請があったという。 比例東海ブロック1位で当選が確実視される片山だが、「本籍も移した。この地で政治をやっていくしかない。不退転の決意だ」とあくまで小選挙区で当選を狙う。 一方の城内。9日夕、浜松市のスーパーマーケット前で「最後まで権力、圧力に負けずに戦います」と訴えた。地元の女性(61)が駆け寄った。 「明日の差し入れはトンカツだからね。勝つんだよ」 北部の中山間地など7区内を隅々まで走り回ってきた城内の努力を評価する声は多い。浜松市は全国特定郵便局長会会長・高橋正安(66)(芳川郵便局長)の地元。ある県議は「城内君のような1回生議員は民営化反対で説得しやすかったんだろう」と話す。それだけに、浜井は「たった1回、たばこを吸った。それで勘当して放り出していいんだろうか」と城内をかばう。 2回連続で党本部と「ねじれ選挙」になった浜井は考え込んでいる。衆院選とは何なのか。 「今回が、小選挙区制の本来の趣旨にのっとった最初の選挙なんだろう。首相が決めたことは、自民党が決めたことだ、と。でも、過疎の山村や海辺は都市部とは生活意識が違う。十把一からげで『この政策でいこう』といってもうまくはいかない……」 (敬称略、おわり)
(2005年9月10日 読売新聞)
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