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    映画

    音を集めて描く地図 映画「TOKYOデシベル」5月公開

    シャープな映像美学、原作・監督の辻仁成さん

    • 音の地図作りを目指す大学教授・宙也(松岡充)
      音の地図作りを目指す大学教授・宙也(松岡充)

     作家やミュージシャンなどとして幅広く活動する辻仁成さんが原作、脚本、監督などを手がけた映画「TOKYOデシベル」が、5月20日から各地で公開される。自らの足で各地の音を集め、音による東京の地図を作ろうという壮大な計画を持つ大学教授が主人公で、彼の周囲の女性や娘らの心の機微を描き出す。終始一貫して辻さん独特のシャープな映像美学に彩られた作品で、“音”が鍵を握るだけに劇中音楽などにも細心の注意を払っている。

     「TOKYOデシベル」の原作は、1995年に文芸誌に発表した小説「音の地図」で、三島由紀夫賞候補にもなった。東京中の音を集音して解析し、音の地図を作ることを目標にしている大学教授の宙也(松岡充)のもとから、ピアノの調律師をしている恋人のフミ(安達祐実)が、「私たちの音がずれている」という理由で去った。小学生の娘と共に取り残された宙也。そこに、家政婦として現れたのがマリコ(安倍なつみ)だった。マリコは家事をしながら、恋人が立ち去った理由を知りたい宙也にフミの私生活の盗聴を持ちかける。最初は気後れした宙也だったが、マリコの誘いに乗ってしまう。

    • 「私たちの音がずれている」といって去ったピアノ調律師の恋人・フミ(安達祐実)
      「私たちの音がずれている」といって去ったピアノ調律師の恋人・フミ(安達祐実)
    • 家政婦として現れたマリコ(安倍なつみ)が持ちかけたのは…
      家政婦として現れたマリコ(安倍なつみ)が持ちかけたのは…

     宙也役の松岡が盗聴という違法な手段を通じて、2人の女性のはざまで揺れ動き、自らの心の内を探り当てるまでの過程を好演している。胸中には嵐が吹き荒れているにもかかわらず、感情を安易に表出させない演技は説得力を生む。そして、安達、安倍の謎を秘めた女性としての立ち居振る舞いが作中に一種のサスペンスの要素を付与して、観客を知らず知らずのうちに引き付けていく。

     宙也の同僚として長井秀和が重要な役回りで共演しているほか、この作品の音楽を手がけているSUGIZOや、山中秀樹、坂上忍らも出演、松岡と安達、安倍の3人の男女の複雑に交錯する微妙な心情の描写をもり立てる。映像の編集も辻さんが担い、都内各地の風景を巧みな技術で美しく映し出しているのも見どころだ。まちなかの騒音や静けさ、そして劇中音楽と、音の面でも、ミュージシャンらしい神経が随所に張り巡らされている。

    「東京に芝居をさせたい」

    • 映画製作現場で撮影の状況を記録する辻さん
      映画製作現場で撮影の状況を記録する辻さん

     パリ在住の辻さんに、今回の映画製作にあたっての意気込みなどを聞いた。

     ――自身の小説の映画化に関して力を入れたところはどこですか。

     松岡さんをはじめ役者たちの演技ももちろんですが、東京に芝居をさせたいと思い、東京の表情の撮影に相当力を入れました。録音部と協議を重ね、音の収録にはかなり神経を使いましたし、音も映画にしたいという思いが強かったです。また、東京をもう一人の主役にしたいというのも強かったです。

     ――映画化まで時間がかかりましたが、原作者としてはどのような思いですか。

     企画・撮影から劇場公開に至るまでの道のりが長かったので、とても喜んでいます。諦めないで頑張ったスタッフの皆さんに感謝をします。小説は一人で書けますが、映画は一人ではできないので、その分大変だし、その分喜びも大きいです。9作目になる劇場映画です。20年以上も前に書いた小説が時を超え、2017年に再び生まれました。小説世界とは異なるこの作品の面白さを味わっていただければ幸いです。これからもコツコツと映画を撮っていきたいと思います。(文・聞き手 塩崎淳一郎)

    つじ ひとなり 東京生まれ。1989年『ピアニシモ』ですばる文学賞を受賞。1997年『海峡の光』で芥川賞、1999年『白仏』のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。著作はフランス、ドイツ、スペイン、イタリア、韓国、中国をはじめ各国で翻訳されている。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野でも幅広く活動。現在は拠点をフランスに置き、創作に取り組む。パリ在住。映画監督・音楽家・演出家の時は「つじ じんせい」。2016年10月にウェブマガジン「デザインストーリーズ」を開設。デザインと世界で活躍する日本人の物語、生きるヒントを届ける“ライフスタイルマガジン”。編集長を務める。

     ヨミドクタープラスでコラム「太く長く生きる」連載中

    2017年03月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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