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    カンヌ国際映画祭2017

    華やかに閉幕、日本の若手監督の将来に期待

    • パルムドールを受賞した「スクエア」
      パルムドールを受賞した「スクエア」

     ホテルに戻って原稿を執筆中の28日深夜、カンヌの街に花火が打ち上がりました。ホテルの窓からは見えなかったのですが、12日間にわたって続いた映画の祭りも、終わったんだなとしみじみしました。

     今年のコンペティション部門は、駄作こそ少ないものの、芸術性、社会性と娯楽性を兼ね備え、誰もが絶賛するような映画がなかったように思います。ただ、終わってみれば、記者ニオシ(イチオシの次)のコメディー「スクエア」(リューベン・オストルンド監督)が最高賞のパルムドールを受賞し、エイズの啓発活動をテーマにした「BPM(ビーツ・パー・ミニット)」(ロバン・カンピヨ監督)がグランプリを受賞。監督賞はソフィア・コッポラ、男優賞はホアキン・フェニックス、女優賞はダイアン・クルーガーという人気監督、俳優が受賞し、授賞式は華やかでした。注目されていたNetflix(ネットフリックス)作品の受賞はありませんでした。

    スニーカー姿で恐縮、ホアキン・フェニックス

     ところで受賞を予想していなかったのか、ホアキン・フェニックスは名前を呼ばれたとき、困ったような顔をしていました。なぜかが分かったのは、壇上に立ってから。タキシードにスニーカーという、ドレスコードにうるさいカンヌらしからぬ格好で、恐縮した様子。隣の会場で報道陣向けの中継を見ていた各国の記者たちも楽しませてくれました。

     今年のカンヌには、河瀬直美監督や黒沢清監督、三池崇史監督ら常連のほか、日本の若手の監督が参加していました。シネフォンダシオン部門(学生映画部門)に「溶ける」が選出された井樫(いがし)彩監督、カンヌが実施する若手監督育成プログラム「シネフォンダシオン・レジデンス」に参加していた福永壮志(たけし)監督です。

    21歳・井樫彩監督は「たぶん次が問題」

    • 「溶ける」の井樫彩監督(撮影・田中 誠)
      「溶ける」の井樫彩監督(撮影・田中 誠)

     井樫監督は北海道出身の21歳。「溶ける」は東放学園(東京)の卒業制作の短編で、田舎町に住む女子高生が主人公。井樫監督が高校時代に感じていた周囲に対する違和感や嫌悪感を描いたという作品です。海外で上映するのは初めてですが、「海外にも共通する(テーマ)。観客の反応を見て、国は関係ない感じがしました」と手応えを語っていました。

     カンヌは、「テレビや雑誌の向こうの世界だった」といい、日本にいるときはあまり意識していなかったそうですが、レッドカーペットを歩いて、「世界は遠いわ、と怖くなった」そうです。カンヌで作品が上映される意味の大きさも痛感し、「たぶん次(回作)が問題なんだろうな」と謙虚に語っていました。

     高校卒業前に進路に悩み、「これならいいかも」と映画監督を志した井樫監督。「世の中にこんなにいい映画があるんだから、私がやんなくてもいいじゃん」と弱気になることもあるそうですが、「映画を撮ることで人生一歩進むみたいな感覚がある。映画をやっている時は生きている感じがする」。表現方法も演出方法も、まだ自分らしさを模索中だそうですが、現在、長編に取り組んでいるそうです。

    34歳・福永壮志監督にも広がるチャンス

    • 「シネフォンダシオン・レジデンス」のイベントに参加した福永壮志監督(撮影・田中 誠)
      「シネフォンダシオン・レジデンス」のイベントに参加した福永壮志監督(撮影・田中 誠)

     福永監督はニューヨーク在住の34歳。2015年に初長編の「リベリアの白い血」(8月に日本公開)がベルリン国際映画祭のパノラマ部門に出品され、注目されました。今回は「シネフォンダシオン・レジデンス」で書いた、アイヌを題材にした長編の脚本のプレゼンテーション(発表)のためにカンヌ入りしていました。

     福永監督は、アイヌ民族が住む地域が残る北海道の出身。「できるだけ作る意義のあるものを主題に選びたい。日本を外から見るようになった自分が作れば、世界に伝わるものができるんじゃないか」と狙いを語ります。世界に向けて発信するためにも国際共同制作には大きな意味があり、現在、ヨーロッパのプロデューサーを探しているそうです。中でも、フランスの制作会社との共同制作が決まれば、同政府の助成金を申請できるというメリットがあります。

     初めてのカンヌは、「同じぐらいのキャリア、位置で頑張っている人たちが世界中から集まっていて、そういう人たちと会って、話をするだけですごく刺激的だった」と語る福永監督。「シネフォンダシオン・レジデンス」からは、「サウルの息子」で2015年のコンペ部門のグランプリを受賞したネメシュ・ラースロー監督が羽ばたいており、福永監督にも大きなチャンスが広がっています。

     いつか井樫監督、福永監督とカンヌで再会する日を願いながら、今年のヨミウリ・オンラインでの報告を閉じようと思います。(文化部 田中誠)

    2017年05月29日 16時39分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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