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    読響

    現代曲紹介 演奏家の使命

    9月、読響と共演…バイオリニスト ギドン・クレーメルさん

      古典の数多い名演で知られる現代最高のバイオリニストの一人、ラトビア(旧ソ連)出身のギドン・クレーメルさんが70歳を迎え、現代作品や若手奏者との演奏に精力を注いでいる。9月には読売日本交響楽団と31年ぶりに共演し、二つの現代曲を日本初演する。「時代と一体感を持ちたい。現存する作曲家とも交流し、音楽に身をささげることが私の天命」と話す。


    作曲家と交流、時代と一体感を持つ

    • 巨匠レナード・バーンスタインの言葉を胸に後進を常に勇気付ける。「彼の作品を共演した時、『こんなに美しい曲を私が書いたって知らなかったよ』と言われ、心の支えになった」=三浦邦彦撮影
      巨匠レナード・バーンスタインの言葉を胸に後進を常に勇気付ける。「彼の作品を共演した時、『こんなに美しい曲を私が書いたって知らなかったよ』と言われ、心の支えになった」=三浦邦彦撮影

     直近は、自ら創設した若手の楽団「クレメラータ・バルティカ」の20周年と70歳記念のアジアツアーを行い、現代と古典の曲を組み合わせた演目を披露。別企画では、クラシック音楽と映像などのアートを絡めた斬新な公演も始め、時事的なウクライナやシリアなどの悲劇を投影する。近年、日本の主要オーケストラとの共演機会はまれで、「その空白が埋められる9月の演奏会が楽しみ」と話す。

     クレーメルさんが発掘してきた現代作曲家は、枚挙にいとまがない。旧ソ連のソフィア・グバイドゥーリナやアルフレート・シュニトケのほか、アルヴォ・ペルト(エストニア)やルイジ・ノーノ(イタリア)ら。タンゴのアストル・ピアソラ(アルゼンチン)の再発見はブームを巻き起こした。こうした功績は、昨秋の第28回高松宮殿下記念世界文化賞で、バイオリン奏者として初の受賞に結びついた。

     活動の裏には強い使命感がある。クレーメルさんは1980年、西ドイツに移住した。「旧ソ連では、いつどこで何を演奏するかを厳格に定められ、自分の心に忠実でいられなかった。西側へ行くのは自由への第一歩だった。現代曲を世に紹介するのは、旧ソ連時代に圧迫も受けた作曲家への友情という意味に加え、次世代に作品を伝える演奏家の大切な使命と感じるからだ」と強調する。

     9月1日の東京公演(池袋・東京芸術劇場)は、80歳になったフィリップ・グラス(アメリカ)の「バイオリンとチェロのための二重協奏曲」を演奏する。「グラスに自分をささげる良い機会。彼の作品の中でも秀逸で、デュオと、そこに管弦楽が加わる楽章が交互に現れる非常に面白い構造」と評する。

     一方、6日に披露するのは、ポーランドに生まれ、ナチス侵攻によりソ連に亡命したミェチスワフ・ヴァインベルクの「バイオリン協奏曲」。「ロシアで誕生したバイオリン協奏曲で最も優れた作品の一つ。メロディーはロシアやユダヤの叙情性にあふれる」とたたえる。ショスタコービッチの陰に隠れて知名度が低いまま死去したが、「ショスタコービッチ作品のそこかしこにヴァインベルクの影響がある。交響曲やオペラ、弦楽四重奏曲など多作だが、世間に認知される手助けをしたい」と話す。

     ヘルベルト・フォン・カラヤンを始め500人近い指揮者と共演してきたクレーメルさん。卓越した演奏技術は深い知性を感じさせ、楽器を豊潤に歌わせるよりも、研ぎ澄まされた演奏で音楽の核心に迫る印象が強い。だが、クレーメルさんは「よく知的な演奏をする音楽家と言われるが、その評価は正しくない」とはねつける。「心掛けるのは、音を響きの言語として伝えること。真実の音は美しいとは限らず、感情と同じように大変な矛盾を抱えている。この感情を探求しているのであり、単に知的なだけの音楽には興味がない」。だから、日本の芸術にも共鳴すると語る。「芥川龍之介の小説、小津安二郎の映画、北斎の浮世絵、坂東玉三郎の舞台。すごく力強い感情が中心にある」

     「昔はイデオロギーと闘い、今は商業主義と闘っている」と語る。若い世代からは「有名人だから集客を考えず、好きな曲で演奏会が出来る」という声も聞くという。日本でも現代作品の公演は一般的に不人気だ。それでも「若い時から我が道を探求するため常に闘う姿勢で臨んできた。大切なのは自分の良心を守り、自分にとっての真実を追い求めることだ」と力を込める。(文化部 岩城択)

    2017年06月21日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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