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「しあわせの隠れ場所」(米)

「肝っ玉母さん」の実話

 貧困地域で育った孤独な黒人少年が、アメリカン・フットボール・リーグのプロ選手になる。出来過ぎた作り話のような感動の物語だが、昨年4月にボルティモア・レイブンズに指名されて5年契約した新人、マイケル・オアーの実話の映画化である。

 麻薬と酒におぼれる母と暮らすマイケル(クイントン・アーロン=写真左)は、父の顔も知らずに育った。知人の紹介で白人ばかりの高校に転入するものの、生活はホームレス同然。あまりに過酷な暮らしに希望はない。彼にできることは、現実から目を背けて固く心を閉ざすことだけだった。

 舞台はテネシー州メンフィス。裕福な白人居住地区と、貧しい黒人地区とが隔絶した、保守色の強い典型的な南部の街だ。撮影はジョージア州アトランタで行われたが、息の詰まりそうな南部特有の空気感が映像から伝わってくる。

 マイケルの暮らしは、裕福な白人女性リー・アン(サンドラ・ブロック=同右)との出会いで一変する。寒い夜にTシャツと短パンで歩く姿を見て、放っておけなかった彼女は、自宅に招き入れる。年頃の娘が居ながら見知らぬ黒人を泊めるリー・アンを、周囲は好奇の目で見る。確かに、マイケルの暮らしは夢のように変化した。だが、より大きく変わったのは、彼女の心情の方。単なる同情ではなく、家族同様に心からの愛情を彼に注ぐようになったのだ。

 ラブ・コメディーのイメージが強いブロックだが、本作では、何事にも前向きで芯の強い「肝っ玉母さん」ぶりが好ましい。マイケル役のアーロンの静かなたたずまいとは対照的で、米アカデミー賞主演女優賞の有力候補と言われるのも納得できる熱演だ。

 マイケルにとって幸運はさらに続く。アメフトで活躍して有力な大学から続々と勧誘される。理解ある教師や、ねばり強く指導する家庭教師(キャシー・ベイツ)らに恵まれて、進学に必要な学力も身に着く。

 降りかかる災難は、進学先決定への疑惑だけ。こんなにも都合の良いことばかりだったのか。実は差別や衝突もあったのではないか。あまりに美談に過ぎるのがひっかかるが、最後にモデルになった彼ら自身の実際の写真が出てくると、そんな思いも帳消しになるほど、心が温かくなった。ジョン・リー・ハンコック監督。2時間8分。新宿ピカデリーなど。(福永聖二)

2010年2月26日  読売新聞)


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