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映画評

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樹の海 (製作委員会)

「自殺大国」ニッポンへのささやかな祈り

 今さら「富士の樹海」でもあるまいと、古い人間は思ってしまう。が、今こそ真剣に語られなければならないという思いもする。「自殺のマニュアル本」が出回り、「自殺サイト」さえ横行するこの時代。自殺者が年間3万人を超える「自殺大国」ニッポン。富士山麓に広がる青木ヶ原樹海を舞台に、自殺をめぐる四つのエピソードが交錯しながら語られる。

 樹海に迷い込んだ人々のさまざまな人間模様。それはそのまま、なにかと生きにくい今の世相を反映している。ヤミ金融から多額の借金を背負い込んだOL(小嶺麗奈)と、彼女を追う取り立て屋(池内博之)。暴力団組織に袋詰めにされ遺棄された公金横領男(萩原聖人)。ひん死の彼が偶然出会う中小企業経営者(田村泰二郎)。そして、不倫の清算にやって来たストーカー女(井川遥)。と、ここまでは樹海での行動とそれぞれの過去が描かれるが、残る一つは、樹海で自殺した女性をめぐる興信所の探偵(塩見三省)とサラリーマン(津田寛治)の東京の居酒屋での対話を中心に展開する。

 それぞれのエピソードの根底にあるのは、現代日本の病んだ時代風潮である。ヤミ金融の借金地獄や横領など金銭がらみの事件、不倫やストーカーなど男女関係のもつれ。そして、先の見えないサラリーマンの漠とした不安と焦り。そんな現状に耐えつつ、あがき、もだえ、苦しむ人々。すぐ手の届くところに〈死〉はある。

 「しかし」と新人の瀧本智行監督は言う。「自分だけ見つめて孤立するのではなく、自分の周りにいる人々のことも忘れるな」と。孤独=自殺から逃れる糸口を、他者との関係の中に見いだそうとする監督のささやかな祈りのようなものが伝わってくる。確かに、「死の樹海」は「再生の緑」でもある。

 俳優の個性を引き出し、自らの言葉で語らせる瀧本監督の正攻法の演出は揺るぎがない。特に、塩見と津田の居酒屋での対話シーンは、悩み多き中高年サラリーマンの「声なき声」を代弁しているようで見応え十分。白熱するせりふの応酬、抑制を利かせた自然体の演技。練り上げられた舞台劇のようであった。

 ――東京・渋谷のシネ・アミューズで公開中。(映画評論家 土屋好生)

お薦め度 5点満点中3.5点

2005年7月4日  読売新聞)
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プロフィール
土屋 好生  Yoshio Tuchiya
映画評論家
 71年読売新聞入社。文化部で映画記者暦23年。「カンヌ国際映画祭」「モントリオール国際映画祭」など海外での取材経験も豊富。キネマ旬報、スクリーンのベスト10選考委員も務める。

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