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映画評

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「天然コケッコー」 (日本)

分校の胸キュン思春期物語

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(C)「天然コケコッコ−」制作委員会

 最近、地方発の日本映画が目立つが、これも島根県の山間部を舞台にした過疎地の分校の物語である。

 何の変哲もない田舎町の日常。しかしそこには、現代人が忘れかけているのんびりとした時間の流れと豊かな自然がある。その世界に浸れば誰しも、温もりと優しさと懐かしさに心動かされるに違いない。

 分校の生徒はたったの6人。中2の姉に小6の弟、中1の女子2人に小2と小1の女子。この疑似家族が通う小さな教室に東京からハンサムな中2の男子(岡田将生)が転校してきたから、さあ大変。主人公の中2の、そよ(夏帆)を中心に、四季を追って分校と家族と町の人々の一年を振り返る。

 小さな共同体の人間関係は一筋縄ではいかないが、子供の世界は天真爛漫、まるで屈託がない。それでも、そよは転校生と淡い初恋を経験したり、大人たちの愛憎関係をのぞいたりして、少しずつ成長していく。思春期の心の揺れ、異性へのあこがれ、将来への夢がない交ぜとなって。

 特筆すべきは6人の子役たちの達者な演技。おっとりとした島根の方言を取り入れたせりふと自然体の身のこなしから、まさに天然恵といっていい巧まざるユーモアがにじみ出し、こちらも自然と顔がほころんでくるから不思議だ。分校の日常をのぞいているような臨場感と、かつての自分を見るような既視感。そこから子供時代への郷愁と懐古の情が浮かび上がり、ふんわりとした幸福感に浸れるのだ。

 そんなファンタスティックな雰囲気は、過酷な現実の侵入によってより強度を増し、かけがえのない記憶へと高められる。その記憶を逆にたどり再現した原作の漫画家(くらもちふさこ)も脚本家(渡辺あや)も監督(山下敦弘)も、皆才能豊かな詩人に違いない。現代人が失ったのは美しい自然だけではない。それは心のゆとりであり、相手への思いやりであり、なにより詩心であることを教えてくれる。

 笑っているうちにやがて訪れる、目頭が熱くなるような結末。これは生き生きとしたファンタジーであると同時に、胸キュンの青春映画であることもお忘れなく。2時間1分。

 ――東京・渋谷のシネ・アミューズほかで公開中。

(映画評論家 土屋好生/読売ウイークリー2007年8月12日号より

お薦め度 5点満点中4.0点

2007年7月30日  読売新聞)
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プロフィール
土屋 好生  Yoshio Tuchiya
映画評論家
 71年読売新聞入社。文化部で映画記者暦23年。「カンヌ国際映画祭」「モントリオール国際映画祭」など海外での取材経験も豊富。キネマ旬報、スクリーンのベスト10選考委員も務める。

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