是枝裕和監督「歩いても歩いても」湘南ロケ家族の再生リアルに是枝裕和監督の新作「歩いても 歩いても」の製作が進んでいる。長男を亡くした家族の葛藤(かっとう)と再生を描く人間ドラマ。8月末、神奈川県平塚市の湘南海岸で行われたロケを訪ねた。(津久井美奈) まばゆくきらめく海。聞こえてくるのは波と風の音。砂浜にたたずむのは、父役の原田芳雄と二男役の阿部寛。二人は、少年が波と戯れる海を、穏やかな表情で眺めている。 確執を抱えてきた二人が初めて並んで言葉を交わす終盤の場面。是枝監督が何度となく原田と阿部に近寄り、言葉をかけながら撮影を重ねていく。 開業医だった父(原田)と母(樹木希林)の暮らす家に、長女(YOU)と失業中の絵画修復士の二男(阿部)がやって来た。15年前に海の事故で亡くなった長男を弔うため久しぶりに集った“家族”の2日間を、さりげないやり取りの中から描いていく。 父母失い「自分の中から自然に出てきた話は初めて」と是枝監督。この数年の間に父と母を亡くした。脚本は、監督が実生活で感じた後悔や悩みを基に、昨年秋、一気に書き上げた。 「日常交わされる言葉で、3行以上の長いせりふは書かない」をルールとしたが、リアルな描写にこだわり、「いまだに直しながら時間をかけて作っている」という。 撮影では家族の微妙な関係を示す距離感の描写に気を配った。「家の中でうまくいっていない父と息子が、どこに立ち、座るかは大事。ここに座れますかねと、出演者と話し合い、互いに着地点を探りながら作っている。この場面は一番それが出るので、どのタイミングで座っていた二男が立ち上がるかなどを相談しながら撮影した」 向き合う大切さ阿部が演じる二男は、死んだ兄に期待してきた父に対して屈折を抱いてきた。ところが、久々に家に帰り、父の衰えと弱さ、息子を亡くした母の恨みを目の当たりにする。そのことで、家族の痛みや身近な死を越えて人生が続く喜びを悟っていく。 「今までキャラクターを作った役が多かったが、今作は本来の自分に近く、演じやすい。せりふも、しゃべりを画面に置いていく感じ」と阿部。 「家族にはすごい距離がある。その不思議さを改めて感じさせてくれる作品。自分もそうですが、社会人になると距離を置いてしまい、分かっていてもうまくいかないことが、リアルに描かれている。歩いても、歩いても、歩み寄れない。でも、向き合うことが大切。そんなメッセージが感じられる作品に仕上げたい」と厳しい残暑の中で続くロケに全力投球していた。 公開は来年初夏。 (2007年9月29日 読売新聞)
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