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【ジブリの挑戦】細密画+動き=驚異の迫力


自ら描いたハーモニーの「動く城」の説明をする高屋法子
 ギシギシと巨体をきしませながら、霧の中から姿を現す「動く城」。素晴らしい映画の幕開きは、今年9月のベネチア国際映画祭でも多くの海外ジャーナリストの心を奪った。

 「アニメーションの魔法」と、地元紙は記者の純粋な驚きを大活字で伝えた。「動く城」の迫力ある造形は、彼らの度肝を抜くのには十分だった。ガラクタを寄せ集めたような複雑な構造の城は、ハーモニーというアニメーションの技法で描かれている。

 だが、担当した高屋法子(42)は「ハーモニーって本当はなくてもいいんです」と言ってのけた。

 これまでも何度か紹介した通り、アニメーションの絵は、背景など動かないものを描く「美術」と、キャラクターなど動くものを描く「作画」に分けられる。

 「美術」は一枚絵なので細密に描かれる。「もののけ姫」の美しい大自然や、「千と千尋の神隠し」の不思議な街を思い出して欲しい。一方、キャラクターは動きをつけるため何枚も描く必要がある。だから、背景よりも単純化した絵を使う。これが「作画」だ。

 だが今回は、動き回る「城」のハーモニー処理を、宮崎駿監督が強く望んだ。ハーモニーとは、透明なセルの上に背景画のようにきめ細かく描いた絵のこと。

 「風の谷のナウシカ」では、巨大虫オームの節々をハーモニーで細かく描き、その絵をゴムでつないで縮めたり伸ばしたりして、虫の動く感じを出した。そうすることで、「動き」と「細密さ」を両立させたのだ。

 「ハウル」では、城の絵をコンピューターに取り込んで動かした。その技法もどんどん進化している。

 高屋は、美大では「服が汚れない」という理由で芸能デザインを専攻した。卒業後、就職しない娘に業を煮やし、アニメーションの美術会社を紹介したのは母。その程度の認識で飛び込んだ業界だった。

 本格的な初仕事がいきなり「ナウシカ」のハーモニー。今も「ナウシカ」を見ると、「自分が手掛けた部分の出来の悪さに心臓が止まりそうになる」。「いいものを作ろうという気持ちが全然なくて、早くやんなくちゃって、そればかりだった……」と振り返る。

 「まだ一人前じゃない」と言うが、宮崎監督の信頼は厚い。何カットもの城を一人で描き上げた。

 「ハーモニーって予算のある映画でしかやれない。逆に予算が少ないと、最初に削られちゃう。だから付加価値でしかないんです」

 だが、その「付加価値」が映画の厚みになる。

 ジブリ作品には多くの女性キャラクターが活躍してきたが、制作現場でも女性たちの貢献度は大きい。スタジオの女子トイレは男性用より立派で、貴重な戦力である彼女たちへの心配りが随所になされている。設計段階から宮崎監督の強い要望だったという。

 キャラクターの動きの基本となる原画を基に、動作の途中経過の絵を描いて動きを完成させる「動画」スタッフは数百人にも及ぶ。子育てなどの理由で、自宅で仕事をする女性も多い。

 「ただ、アルバイトというのとはちょっと違う。皆、専門技術を持った人たちですから」と話すのは、「ハウルの動く城」で動画チェックを担当した舘野仁美(43)。キャラクターの動きに関しては「最後のとりで」となる役目で、ジブリでは「となりのトトロ」から担当している。

 「原画がいくら上手でも、動画が下手では台無し。完成により近いところにいる喜びもある」。腕利きアニメーターでも、あえて原画への道を進まず、動画一筋という人もいるという。

 同じく動画チェックの中込利恵(41)は、「おもひでぽろぽろ」からジブリ作品にかかわってきた。「途中の絵をどう描くかで、動きの見え方がまるで違って見える。それがうまくいった時はとてもうれしい」

 大勢のスタッフが、膨大なカットを相手に、一つ一つの絵に細心の注意を払いながら作っていく。気の遠くなるような作業だが、だからこそ、細部にまで神は宿るのだ。(原田康久)


2004年12月14日  読売新聞)
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