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ジブリをいっぱい

アニメーション業界の自転車熱2004【前編】

 今年もまた、「あの季節」がやってきた。

 昨年公開された映画「茄子 アンダルシアの夏」(高坂希太郎監督)に魅せられてしまったというだけで自転車に乗り始めた記者が、アニメーション業界のツーリング・イベント「ツール・ド・信州」に初挑戦してから早一年。再び、「茄子」に登場する「パオパオビール」のジャージに袖を通すことになった。

 昨年に続き、この無謀な挑戦の顛末と、自転車に魅せられたアニメーション業界の人々の姿を、本コーナーの「番外編」として3回に分けて追っていく。「前編」である今回は、ツーリングに先立って行われたチームミーティングの模様をお伝えする。(依田謙一)


「茄子 アンダルシアの夏」 DVDで発売中
 「茄子」は、世界三大自転車レースの一つ、スペインの「ブエルタ・ア・エスパーニャ」を舞台に、解雇寸前のレーサーである主人公ペペが故郷を走り抜ける姿を描く、本格的な自転車アニメーション映画。

 自身も相当な自転車乗りである高坂監督へのインタビューを通じて自転車に興味を持った記者は、早速新車を購入。昨年10月、高坂監督が所属するマッドハウスの一員として「ツール・ド・信州」に参加した。

 「ツール・ド・信州」は、東京・稲城市から長野・諏訪郡まで、153キロを走破する自主イベント。これとは別に「TOUR DE 信州」(主催・TOUR DE 信州実行委員会)というレースがあるが、あちらは一般参加が可能な大会で、当イベントとは関係ないことをあらかじめお断りしておく。

 参加するのは、マッドハウスをはじめ、「イノセンス」を制作したプロダクション I.G、大友克洋監督率いる「スチームボーイ」チームなどそうそうたる面々。今年の幹事はスタジオジブリが務める。

 記者は昨年、初挑戦ながら何とか完走。10時間かけて153キロを走り抜いた。タイムも順位もぼろぼろだったが、最低限の目標だけは達成できた。しかし、一方で体力不足を痛感。ゴール後、「来年はしっかり練習をして臨む」と誓った。

 あれから1年。実を言うと、ほとんど自転車に乗らずに過ごしてしまった。「乗らねば」という思いはあったものの、「寒いから」「暑いから」と言い訳しているうちにあっという間に季節が巡ってしまったのだ。

 しかも今年は、30歳代に突入。「まだ若いじゃないか」という声も聞こえてきそうだが、体力の低下を日々感じている。階段をのぼるだけで息が切れ、電車で空いている席を見つけると座りたくなるなんてことは、以前はなかった。

 困った。

 昨年は不安より楽しみが勝っていたが、今年は自分の体力を思うと、気持ちがどんどん重くなっていく。

 そんな中、マッドハウスでチームミーティングが開かれた。ツーリングの1週間前のことだ。

 このチームは、ほかの自転車レースでも好成績を残している強豪揃い。スタジオに着くと、見るからに「今夏もよく走りました」という日焼け顔が並んでいる。

 最近まで、「ハウルの動く城」に作画監督で参加していた高坂監督を見つけた。言うまでもなく、この人の顔もよく焼けている。挨拶すると、高坂監督は開口一番、「走っていますか」。

 再び、困った。

 正直に答えねばと思っていたものの、口をついて出た言葉は「それが“あんまり”乗ってなくて」。

 ……ごめんなさい、高坂監督。記者はあの時、嘘をつきました。本当は“あんまり”ではなく“ほとんど”です。

 ミーティングが始まった。説明によれば、今年も午前6時にスタートし、午後5時半までにゴールしなければ「失格」となるという。ざっと平均時速15キロで走らなければならない計算だ。

 ふむふむと聞いていると、驚くべき発表があった。今年は出場者が多く、時間差でスタートするため、「強豪揃い」のマッドハウスチームが出発するのは午前6時半過ぎになるというのだ。それでいてゴールの締め切り時間は変わらない。「とりあえず今年も目標は完走」としていた記者にとっては、出発前から大きなタイムロスとなる。

 三度、困った。

 同じチームで出場する「茄子」原作の漫画家・黒田硫黄さんに「2年目の方がコースを知っている分、楽に走れるから大丈夫ですよ」と励まされるも、心は晴れないまま。

 重い足取りで家路につく。天気予報を見ると、開催当日はどうやら台風の接近が予想され、雨の可能性が高いとのこと。思わず、ミーティングでの「大雨なら中止も」という話が頭をよぎり、心の隅で「降らないかな」と願っている自分に気づく。

 果たして、イベントは無事に開催されたのか。次回をお待ちいただきたい。


2004年10月26日  読売新聞)
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