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ジブリをいっぱい

新春対談 鈴木敏夫VS押井守

鈴木 敏夫(すずき としお)さん
押井 守(おしい まもる)さん


鈴木 敏夫(すずき としお)=右

1948年、名古屋市生まれ。慶大卒業後、徳間書店に入社。「月刊アニメージュ」編集長などの傍ら、宮崎駿、高畑勲作品の製作にかかわり、85年にスタジオジブリ設立に参加。


押井 守(おしい まもる)=左

1951年、東京生まれ。東京学芸大卒業後、竜の子プロ入社、テレビアニメを演出。スタジオぴえろに移籍後、フリーに。「機動警察パトレイバー」シリーズなど

 今や世界に名高い日本製アニメーション。今年は、その話題作が相次いで公開される。押井守監督の「イノセンス」と、宮崎駿監督の「ハウルの動く城」。映画界の話題を独占すること間違いなしの両作品に、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが参画している。そこで読売新聞では、鈴木プロデューサーと押井監督の初対談を企画した。20年来の友人であり、常に時代をリードしてきた2人の話はアニメーションにとどまらず、映画論や家庭論にまで及んだ。(司会/原田康久)

人間描くことが基本/鈴木 生きる実感気になる/押井

鈴木 実は最近、「風の谷のナウシカ」を20年ぶりに見たんです。改めて感じたのは、ナウシカは傷ついた地球をたった1人で救おうとしている。背負ったものが、大きいんですね。当時は「宇宙戦艦ヤマト」のように、どれも壮大なテーマだった。だが、最近の宮(崎駿)さんの作品で言うと、例えば「もののけ姫」の主人公アシタカは非常に個人的な理由で旅立つ。

押井 ええ。

鈴木 非常に個人的な理由が映画のテーマとして支配している。押井さんの場合は、どうかなあと思ってね。

押井 「ナウシカ」の当時、アニメーションは地球の運命や人類の運命を背負ってたんですね。学園ものシリーズでも、映画化されると、突然「地球だ」「人類だ」になっちゃう。当時、僕は「うる星やつら」をやっていましたが、何かというと「地球だ」「人類だ」というのが嫌だった。

――宮崎さんも、人類を救うというテーマではもう作っていない訳ですよね。

押井 一つには年を取ったからでしょう。年齢は作品に大きくかかわる。特にアニメーションは、作る人間の意識がもろに出ますから。僕自身は、これまで時代にどうやって抵抗するかということを作品づくりの根拠にしてきた。ところが、だんだん年取ってきて、何となく首から上(頭)と下(体)で考えることが、一致しなくなってきた。生理的に求めているものと、作ってきたものが、どうも違うんじゃないかと。

――「イノセンス」で?

押井 前の「攻殻」が終わった頃から。


鈴木 時代を追うテーマがあるとしたら、現代において何を作るべきか、ということです。僕の子供のころは本当に貧しい子がいっぱいいて、当然映画も「貧乏の克服」が大きなテーマ。それを一番うまくやったのが黒沢明です。ところが衣食住が行き渡った途端、黒沢が持っていたテーマは意味を失い、彼はファンタジーとしての貧乏を描き始める。それで苦しむ。そんな時代に宮崎駿は自然の問題を取り上げ、「貧乏は克服したかもしれないが、その結果として何が起きたんだ」というテーマで新しい娯楽映画を作った。ところが、気がつくと、その宮さんのテーマも個人的なものになってきている。「千と千尋の神隠し」が非常に象徴的ですけれど。でも、押井さんはもともと、人類や地球とは無縁にやってた訳でしょう。

押井 うさんくさいと思っていたんです。大上段に振りかぶった言い方や考え方が。

鈴木 僕は団塊の世代で大学闘争の世代ですよ。押井さんは、そのころ高校生。大学生が大規模デモを組織するのを社会は許したが、高校生は許されない。その差は決定的だと押井さんが言ったんです。その恨みをずうっと抱き続けてるんだよねえ。

――だから、ずっとアンチテーゼを発表し続けている?

鈴木 押井さんは人間を描くことに興味はないと言う。

押井 正確に言うと、人間という「現象」や「存在」には興味がある。でも、個々の感情や心理といったことは文学に任せとけと。

鈴木 押井さんは、小津安二郎なんて全然評価しないんです。杉村春子が、ある気分を非常にうまく出す。そういうのが好きな僕を、「だから新しい映画にかかわれないんだ」と批判する。映画の基本は人間を描くということだと思う。ところが押井さんは、「いや、おれは人類を描く。歴史を描くんだ」と言う。「ナウシカ」は人類を描いているんだけど、それを押井さんはどう思っていたのかなあ。

押井 でも、結果的にお客さんは「ナウシカ」という女の子を見ている訳でしょう。

鈴木 僕は押井さんに頼まれて映画に1本出ているんです。自分としては演技を頑張って、カメラマンもいいショットがいっぱいあると認めてくれた。ところが押井さんは、僕の名演技を全部カットする。

押井 ハッハッハッ。

鈴木 いい演技に目を奪われないような作品にするんですよ。それが僕は疑問でね。


押井 いや、あれは本人が勝手に名演技と思っているだけで……。あるアニメーターに「あんたに『千と千尋』は絶対作れない」って言われたんです。要するに、お前の映画には人間の感情がない、情緒がないと。こっちは「その通りだよ。それのどこが悪い」と。

鈴木 僕は、「天使のたまご」という映画にかかわりながら本当に驚いたのは、この映画は観念の具体化だと思った。情緒がないんです。男女2人が出てきながら、官能性が一切ない。

――今度の「イノセンス」も、その方法論なんですか。

押井 それが突然ね、首から下が気になり始めた。自分の生活の実感がね。今までどうでもいいと思っていたのに。

鈴木 杉村春子はどうでもよかったのに。

押井 そう。自分が生きているという実感みたいなものが、けっこう生々しくなってきた。たぶん、年のせいもあると思うんだけど。

鈴木 今、宮さんは「ハウルの動く城」を作っていて、毎日イライラしているんです。なぜかと言うと、宮さんは、登場人物の気分や感情を出そうとする。ところが、最近の若い人たちは、それを描けない。で、若い人たちが描いた動きを「違う!」と言っては描き直している。ところが押井さんは、「そんなの分かっていなかったのか。今の若い人たちはとっくにそうなっている」と。

押井 きっと、今の時代、自分の体はないも同然なんです。携帯やインターネットで感覚の延長線上にあるものは膨大に広がった。でも、自分の存在がまさにこの体なんだという感覚がない。

鈴木 「イノセンス」には、人間の肉体を持った人がほとんど登場しない。主人公に脳みそだけが残っていて、あとは全部機械。まさに現代の人間なんですよ。(次ページへ続く)


「イノセンス」押井守監督作品 3月6日(土)全国東宝洋画系にて公開

 イノセンス それは、いのち。
 現実と虚構の境目を鋭く描く押井守監督の最新作。
 前作「アヴァロン」以来、4年ぶりの新作となる。来年春に公開予定。プロデューサーに鈴木敏夫を迎え、スタジオジブリが制作協力する。
 (c) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD


2004年1月6日  読売新聞)
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