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ジブリをいっぱい

――出来上がった絵コンテを見た感想は。

鈴木 これは僕よりも他の人の言葉で紹介した方がいいと思いますが、名アニメーターの大塚康生さんは、「映画として素晴らしい」と絶賛した上で、誰が描いたのか聞いてきたので、吾朗君ですよと言ったら、「蛙の子は蛙だったんだ」と心底、驚いていました。また、庵野(秀明)に見せたら、吾朗君の年齢を38歳だと知り、「どうしてもっと早くやらなかったんだ」舌を巻いていた。そして、「これは完全に宮崎アニメですね」と。

――駿監督の反応は。

鈴木 見ていません。吾朗君の監督起用に対し、「鈴木さんはどうかしている」と意見を言っていましたからね。「あいつに監督ができるわけがない。絵も描けないし、何も分かっていないやつなんだ」と怒り出した。そこでまず、吾朗君が描いたポスター用の竜とアレンが向き合った絵を見せたんです。そうしたら黙ってしまいました。宮さんの描かない横からのカメラアングルだったからです。一枚の絵ってそういう力があるんですよ。そこで、僕からはっきり言いました。「進めますよ」。本人はしばらく呆然としたままでしたけどね。

――それで一応、解決ですか。

鈴木 いえいえ。今年6月、ル・グウィンさんの元へ「こういう内容でやりたい」と許諾をもらいに行くことになった際、宮さんの機嫌のいい日があったので、「絵を一枚描いて下さい」と言って、映画の舞台となるホート・タウンの絵を描いてもらったのですが、後で「描かなきゃよかった」って悔んでいたくらいですから(笑)。でも、結局、許諾をもらいに行ったのは宮さんなんですよ。


映画の中心となる「ゲド戦記」第3巻 岩波書店より発売中

――吾朗さんではなく?

鈴木 最初はその予定でしたが、宮さんが「それはおかしい」と言い出した。監督は時間があるなら一枚でも多く絵を描くべきで、原作者へ許諾をもらいに行くのはプロデューサーの仕事だろうと。そこで「じゃあ宮さんと僕で一緒に行きましょう」と提案しました。思わぬ展開に動揺していましたが、「ファンなんだからいいでしょう」と説き伏せました(笑)。

――会った時の様子は。

鈴木 ル・グウィンさんには宮さんが行くことを隠しておいたんです。それで、宮さんを「彼が宮崎吾朗です」と紹介したら、「ずいぶんお歳をめした方だったんですね」と笑っていました。本人は部屋に入ってきた時から分かっていたと思いますが、そのことには一切触れなかった。おかげで和むことができました。

――交渉は順調でしたか。

鈴木 いろいろありましたよ。何しろ彼女は宮崎「駿」に映画化してほしいと言っていたわけですから。まず宮さんが「今日は俺に話をさせてくれ」と「ゲド戦記」への思いを話しました。「『ゲド戦記』はいつも枕元においてある。片時も放したことがない。悩んだ時、困った時、何度この本を読み返したことか。告白するが、自分の作ってきた作品は『ナウシカ』から『ハウル』に至るまですべて『ゲド戦記』の影響を受けている。映画化するなら世界に自分を置いて他に誰もいないだろう」と言い切った。

――どうなったのですか。

鈴木 直後、彼は「しかし」と付け加えました。「この話が20年以上前にあったなら、自分はすぐにでも飛びついていたと思う。だが、自分はもう歳だ。そんな時、息子とそのスタッフがやりたいと言い出した。彼らが新しい魅力を引き出してくれるなら、それもいいかも知れない」。そしてこう締めくくったんです。「スクリプトには自分が全責任を持つ。読んで駄目だったら、すぐにやめさせる」と。

――ル・グウィンさんの反応は。

鈴木 冷静でしたね。このあたりが日本人と米国人の違いというか、非常に理性的なんです。彼女は「三つ質問があります」と言いました。一つ目は「映画化されるのは第3巻が中心だと聞いていますが、登場するのはすでに年老いて中年になったゲドです。今のあなたにこそふさわしいのではありませんか」。二つ目は「あなたは吾朗さんが作る作品に対して全責任を持つと言いましたが、それはどういう意味ですか」。三つ目は「駄目だったらやめさせるとはどういうことですか。今日、あなたは映像化の許諾を取りに来たのではないのですか」。それを聞いた宮さんは僕の方を向き、「俺、何かまずいこと言ったかな」と困った顔をしました。

――何と答えたのですか。

鈴木 僕は「全責任を持つというのは、この映画のプロデューサーをやるんですかと聞いているんです」と答えました。そうしたら宮さんはル・グウィンさんの前で突然、大きな声を出しました。「冗談じゃない! 親子で一本の映画に名前を並べるなんてみっともないことはできない」と。率直な人なんです。


「宣伝は『ハウル』と違って正攻法でやりたい。なにせ新人ですから」と語る鈴木プロデューサー
――話が紛糾してしまった。

鈴木 アメリカ人には意味不明ですよ(笑)。どうなるかと思っていたら、彼女の息子のテオさんが「とりあえず食事しましょう」とその場を取り直してくれた。テオさんは、交渉前に日本に来てくださり、僕や吾朗君といろんな話をしていたので、味方になってくれたんです。これは僕の勝手な推測ですけど、偉大な親を持った者同士で相通じるところがあったのかも知れません。

――結局?

鈴木 夜の食事の前に了承してくれました。

――その後の状況は。

鈴木 今も混沌としていますよ。二人はまったく口をきいていません。つい最近まで宮さんが美術館用の短編を同じフロアで作っていたのですが、お互いの声が聞こえても決して接点を持とうとしなかった。部屋の中ですれ違いそうになるとすっとお互いを避けて踵を返していたほどです。

――駿監督のクレジットはどうするつもりですか。

鈴木 悩んでいます。苦し紛れに珍案奇案も考えました。「父 宮崎駿」とか(笑)。

 話を聞きながら、「紅の豚」(92年)を思い出した。鈴木プロデューサー似の飛行機製造会社の社長が、駿監督似の主人公ポルコ・ロッソに修理を頼まれた際、若い女性設計士フィオを紹介する場面。断ろうとするポルコに、彼女は大切なのは経験なのかと問う。すると、ポルコはこう答える。

 「インスピレーションだ」


「ゲド戦記」宮崎吾朗監督

 「三鷹の森ジブリ美術館」前館長の宮崎吾朗が、自筆の絵コンテで、アーシュラ・K・ル・グウィン原作、清水真砂子訳の名作ファンタジーを初映画化。原作は岩波書店から全6巻で発売中。東宝系で来年7月公開。


2005年12月26日  読売新聞)
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