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ジブリをいっぱい

「声で効果音」やりたかった 宮崎駿監督、新作短編を大いに語る

 宮崎駿監督が、短編アニメーションの新作3本を制作した。「商業主義にのっとらず、子供たちに楽しんで欲しい」という思いから1年かけて作られた。ここ数年、国内ではインタビューを受けることがなかった世界的巨匠が、作品に寄せる思いなどを約2時間にわたって語ってくれた。(原田康久)


三鷹の森ジブリ美術館のアトリエで、美術館に飾る展示品を自らの手で作りながら、エプロン姿のままインタビューに応じる宮崎駿監督。市販の地球儀の上に絵を描くなどしていた。「楽しいですよ。疲れも吹き飛びます」
 今回の短編3本は、一昨年公開された「ハウルの動く城」の制作が終わって、すぐに手掛けたという。スタッフを三つに分け、それぞれ演出アニメーターを立てて、かなりの部分を彼らの裁量に任せた。

 ――「やどさがし」は画面にそのまま、雨の「ザー」とか、森の「ザワザワ」とか、(絵で描いた)文字が出る。効果音も音楽も、すべてタモリさんと矢野顕子さんの声だけで表現している。普通の劇場公開作ではできませんよ。

 今の映画制作って約束事でがんじがらめでしょ。効果音と音楽とせりふを別々にとって、ミックスして、デジタル処理して……みたいな。だから、2人が「ムニュムニュ」とか「ザー」とか言うのを一気にとって、ライブ感覚を出したかった。2人の才能には驚きました。

 「水グモもんもん」は、3万枚も絵を使った。

 ――あぶくと水の波紋を描くだけで、枚数がかかるんですよ。その分、お金もかかる。短編って、絶対に商売にならないですよ。ところが、ジブリには(三鷹の森ジブリ美術館の)劇場がある。もうけを考えなくてもいい。こんな気持ちのいい仕事はありませんよ。

 今は映画も大量生産、大量消費でしょ。(ビデオの)スイッチを押せば、何度でも見られる。子供にとって理想的な映像との出合いって、そんなもんじゃないと思う。今度の作品は美術館でしか見られない。違う形の映像との出合い方を、子供たちに見せられたらうれしい。

 スタジオジブリは今、スタッフに子供が生まれる“ベビーブーム”。短編制作中に父親になったアニメーターが2人いて、僕は色紙に「あなたがおなかにいる時に、おとうさんはこの映画を描いていました。いい仕事をしました」と書いた。幸せな体験でした。


「水グモもんもん」より(c)2006二馬力・MG
 2001年公開の「千と千尋の神隠し」がベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞、米アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。「ハウル――」も、ベネチア国際映画祭でオゼッラ賞を獲得した……。

 ――賞なんて、何の意味もないですよ。そんなことよりも、子供が「水グモというお尻から空気を吸う変な生き物がいるんだ」って感じてくれることの方が大事です。

 「やどさがし」では、主人公の女の子が空き家に泊まると、ぞろぞろ虫がはい出てくる。彼女が地面に線を引くと、虫は入ってこなくなるんですね。

 本当はそんなこと、ありえない。でも、子供は、結界を張ったら中には入れないといったルールの遊びをよくやる。この感覚をなくしちゃいけない気がするんです。そして、世の中に存在するものすべてに命があるという感覚。だから、この子は(虫や木や神社を相手に)礼儀を守る。

 今、何でもいいから映画を撮れと言われたら、「関東大震災の時、深川の川船にたくさんの人が逃れて、隅田川の真ん中で、火が消えるまで生き延びたという話をやりたい」と語る。

 ――熱でピシピシ鳴る船を、皆で水をかけて冷ました。太田道灌がいたころの江戸なんかもアニメーションにならないかなあ、なんて夢想しますね。

 実は、明治の終わりごろの(埼玉県川越市から隅田川まで流れる)新河岸(しんがし)川の交通を描きたくてシナリオを書いた。郷土資料館や本で調べ、アニメーターに船頭や櫓(ろ)の動きを研究してもらった。どこかの資料館あたりに納入して、歴史の教材にして欲しいと思ったんだけれど、人情話風のシナリオが30分もの長さになり、あきらめた。どこかが出資してくれたら、すぐにでも作りますよ。

 ジブリの新作は、長男の吾朗氏が監督をし、今年7月に公開される「ゲド戦記」に決まった。

 ――(作品には)口も出さないし、手も出さないし、目も出さない。見ないってことです。一切かかわらない。だから、僕はアトリエにこもっている。近づくと、お互い緊張感が走りますから。

 親子って、単純に割り切れる関係じゃないし、相手が誰であれ、認めるか、認めないかの尺度は、自分の中にちゃんとある。ただ、自分が気に入らないからといって、「やめろ」とは言わない。それは、一貫して一度もやってないです。


「星をかった日」より(c)2006井上直久・二馬力・MG
 5日に65歳になった。自分の次回作については、「まだ話す段階ではない」と言い切る。

 ――まだ、誰にも相談していませんよ。話すと空気が抜ける。でも脳みそというのは不思議なもので、能力が残っていれば、おのずと(アイデアを)考え出してくれる。何も出てこなくなったら、終わったってことです。

 いつも創作は後悔の連続ですが、「千と千尋の神隠し」はかなり気分が良かった。いつか海の上を走る電車を描きたいと思っていて、そのイメージにぴったりとはまる場面が見つかったから。

 漫画家になるか、アニメーターになるかで悩んでいたころから頭の中にあった、流れ星がパーッと流れてきて飛び散るイメージも、「ハウル――」でやれた。ほかにも実現させたいイメージはあるけれど、この先、描けるかどうか。僕も先は長くないからねえ。

 今回の短編でも、ずっとやりたかったことができた。作品の最後に、タレントさんを除くスタッフの名前を全員、順不同で1枚の絵の中で紹介した。だらだら名前を出す最近の映画は嫌い。ましてや短編でやったら、観客に失礼ですよ。これも痛快でした。

 今回、初めて分かったことがある。それは、スタジオジブリはその潜在能力において、世界一のスタジオだということ。

 ――撮影もCGも録音も人脈も、誠実に作品を作ろうとする姿勢も、すべてにおいてです。今度のような短編は、世界のどこの国でも作れない。実際はヘボでへたくそな人間の集まりですけど。

 3本の短編は、東京の三鷹の森ジブリ美術館で上映中(3月13日までの予定)。入館者は3本のうち1本だけ見られる。同美術館は日時指定の予約制。詳しくはこちら


美術館で限定上映中の新作短編


「やどさがし」より(c)2006二馬力・MG
「やどさがし」
新しい家を探す女の子の旅を描く。音や雰囲気を表す「ザー」「ぞぞぞ」など、豊かな日本語表現をそのまま動画で画面に表現し、効果音もすべて声で作ったという実験的な作品。約12分。

「水グモもんもん」
水グモとアメンボの恋と冒険。空気の泡を水中に引きずり込んで巣を作る水グモの視点で、巨大なザリガニや魚、小さなミジンコなど命あふれる池の中を美しく描き出す生命賛歌。約15分。

「星をかった日」
画家・井上直久による空想世界を基にした幻想的な作品。少年ノナ(声・神木隆之介)は、畑の大きなカブを不思議な2人組に売り、「星の種」をもらう。鈴木京香も声優に挑戦。約16分。


2006年1月17日  読売新聞)
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