連載「雪の女王」インタビュー 石川さゆりさんに聞く石川 さゆり(いしかわ さゆり)さん
――原作はアンデルセンの同名童話です。 石川 自分の子供が小さかった時に、童話や民話をよく読んで聞かせていたのですが、意外と残酷な題材が多いんですよね。アンデルセンもそう。でも、アニメーションというのは、残酷な部分をそのまま描写としなくとも、話の根幹や伝えたいものを、演出によって「夢のある世界」として見せることができる。そういう意味で、この作品には、人が生きていくうちに経験することが凝縮されていると思います。幸せに仲良く暮らしていても、魔が差したり誘惑があったりして壊れてしまうこともあれば、まるで魔法にでもかかったようにだまされてしまうこともある。あるいは、離れ離れになってもずっと想いを持ち続けている人がいれば、それを待っている人もいる。そしてその想いには、すべての壁を溶かす力がある――。今の社会にとっても大切なことがたくさん秘められていますよね。私は、映画を見ながら、ふと「今の宮崎監督が作ったらどうなるかな」と考えました。きっと、もっと大きな勇気を与えてくれる作品にしてくださるのではないでしょうか。 ――宮崎監督の作品をご覧になったことは。 石川 よく見ていますよ。特に「となりのトトロ」が大好き。子供が小さかった頃、引越しで学校が遠くなってしまい、車で送り迎えをしていたのですが、車中で毎日、見ていたんですよ。おかげで隣で運転していた私まで、台詞を暗記してしまいました(笑)。 ――“冬の歌の女王”から見た雪の女王の印象は。 石川 皆さんが最初に覚えてくださった歌が、たまたま「津軽海峡・冬景色」だったというだけで、“女王”なんて言われると恐縮してしまいますが(笑)、彼女はかわいそうな人だと思います。本当は誰かと楽しく暮らしたいはずなのに、愛情の表現が下手。彼女をああいうふうにしたのは、寂しさではないでしょうか。人は孤独と戦って生きていかなければならないけど、くじけちゃったのかもしれない。そういう意味では決して悪役ではないと思います。 ――むしろ誰にでも当てはまるところがあります。 石川 私ね、人と向かい合う時は、「いい人」とか「悪い人」って一方的に決めつけちゃ駄目だと思っているんです。個人で会うといい人なのに、仕事や何人かで会うと急に変わってしまう人っているでしょう? あれも寂しさの裏返しだと思うんですよ。そういう人は雪の女王になりやすいはず(笑)。 ――ゲルダについては。 石川 物語の途中、彼女が川に靴を差し出すと船が導いてくれる場面がありますが、おとぎ話でありながら、人間くさくて興味深かった。だって、捧げものをしないと見返りがないということでしょう? でも、北国に暮らす彼女とって靴がいかに大事なものかを考えれば、大切な人のために自分を犠牲にすることの重さが痛いほど伝わってくる。極端な例ですが、もし自分の子供が病に倒れることがあったとしたら、私は臓器だってなんだって差し出したいと思っているんです。もしかしたら何の役に立たないかもしれないけど、どうにか私の気持ちを届けたい。見返りはないかもしれないけど、想いを抱くとはそういうことではないでしょうか。 ――ゲルダは、宮崎監督が描き続けているヒロイン像の原点だと言われています。 石川 宮崎監督が描くヒロインは、みんな純粋ですが、それに対して憧れを持つのも「そんな人はいない!」と拒絶するのも違うんじゃないかな。だって、彼女たちにある純粋さは、本来、誰でも持っているものなんですから。日々の暮らしの中で、うまく表現できていないだけですよ。忘れてしまっているだけでね。
(2007年12月25日 読売新聞)
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