――ハウル役で声優初挑戦の木村拓哉さんについては。
――アィーン、ですか。 倍賞 彼、困ってましたけど、こっちはそれで楽になりました(笑)。逆に、木村さんの収録が先に終わって、花束を上げた時は、肩をぐっと抱かれ、今度は私が「わおっ」って。 ――ソフィーに恋心が芽生えたのは、どの場面だと思いますか。 倍賞 最初に出会った瞬間。一目惚れなんでしょうね。ソフィーがハウルを見上げる顔を見れば分かる。ソフィーは生身の人間ではありません。それでも、黙っているシーンでさえ、彼女の心臓がドキドキしているのがはっきりと伝わってくる。 ――アニメーションの絵から内面を感じた。 倍賞 収録の初日にスタジオを見学し、人物の表情や動きの一つ一つに、何十人ものスタッフの思いが重なっていることも知りました。そこに声を重ねる私も、ソフィーの一部分でしかないんです。いえ、だからこそ面白い。スタッフの一員として、作品を作り上げる喜びを今回、教えてもらったと思うし、スタジオを見なければ気づかなかったでしょう。 ――主題歌の録音の様子は。 倍賞 緊張していたら、主題歌の編曲を担当した久石譲さんが、最初に別々のブースで録音する私と演奏者を集めて指揮をしてくれたんです。そこで合わせたことによって、一体感を持って臨むことができました。 ――監督の要望は。 倍賞 「僕は音楽のこと分かりませんから」と言っている割に、ちゃんと適切な指摘してくれるんですね。たとえば、「夜にひそむやさしさ」という歌詞の部分が難しかったんですが、声の録音の時のように「自然に」と言ってもらえたことで、すんなり歌うことができた。最近、自分のCD収録が楽しくなくて、嫌だ嫌だと拒絶症にもなっていましたが、スタッフと作り上げる創作の原点を味わったことで、自分はモノを作る厳しさから逃げていただけなんじゃないかと思いました。 ――「ハウル」は倍賞さんにとってどんな作品ですか。 倍賞 私に素敵な出会いをくれた映画。心に空いていた大きな穴ぼこが一つ、埋まるくらい、かけがえのない仕事でした。自分の仕事や自分自身に満足して生きてなかったんじゃないかと、気づかされましたね。 「ソフィーだ」 倍賞がインタビューに現れた瞬間、そう思った。話しているうちに、映画の中のソフィーと話していると錯覚してしまい、「倍賞さんは」と聞くべきところを「ソフィーさんは」と言ってしまったほどだ。 キャリアに関係なく、かけがえのない役に出会える役者は、幸福である。倍賞にとってソフィーが、「男はつらいよ」のさくらのようにかけがえのないものになったことは、そのたたずまいからしっかりと伝わってきた。
(2004年11月16日 読売新聞)
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