「ハウル」原作者 ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんに聞く―後編ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん
――映画はご覧になりましたか。 ジョーンズ まだです。 ――これがポスターです。
――ベネチア国際映画祭では観客たちの反応もよく、よく笑っていました。 ジョーンズ 「ハウル」はそういう作品なの。私も自分で読んで、笑い転げてソファから転げ落ちたこともあったくらい。 ――宮崎監督が原作のユーモアを尊重した。 ジョーンズ 原作と映画が別のものになることは、構わないと考えています。原作は読みながら自分だけの空想ができますが、映画は様々な観客が観る前提で具体化しなければなりませんから。でもユーモアが引き継がれているとしたら嬉しいわ。 ――これまで宮崎作品をご覧になったことは。 ジョーンズ 「天空の城ラピュタ」(1986年)が最初。すぐに彼は天才だと思いました。ですから、映画化のオファーがあった際には、迷うことなくOKしました。 ――他の作品については。 ジョーンズ ジブリからビデオを送ってもらい、「となりのトトロ」(88年)「魔女の宅急便」(89年)「紅の豚」(92年)「もののけ姫」(97年)を観ました。どれも素晴らしい作品だったわ。孫たちも大好きで、座ったままずっと観ています。今度は自分の作品を一緒に観ることができるので、楽しみ。 ――宮崎作品のどんな点にひかれますか。 ジョーンズ 一言で言うのは難しいわね。彼の作品が素晴らしいのは、一つの映画に様々な要素が詰め込まれていることだと思うから。あえて絞るとすれば、風景画の美しさ。一作ごとに違う表情を見せながら常に魅力的であり続けている。これは稀なことだと思います。 ――「ハウル」の風景画も素晴らしいですよ。 ジョーンズ それは楽しみ。そういえばジブリのスタッフが来た際、私がどういう風景を思い浮かべながら本を書いたのか知りたいと聞かれたので、こう答えました。「様々な要素が入っているから特定するのは難しい。しかもその中には、心の中の風景も含まれる」と。 ――宮崎監督も心象風景をイメージボードに描いていたようです。 ジョーンズ 心の中の風景から出発するというのは、私と宮崎監督の共通点かも知れません。私はそれを文字にし、彼はアニメーションにします。 ――7リーグ靴に代表されるように、他にも宮崎作品に通じる疾走感や浮遊感がありますね。
――ねばねばしたものが登場するのも。 ジョーンズ そう。確か「千と千尋の神隠し」(2001年)にも登場していたわね。 ――宮崎監督が原作物に取り組んだのは「魔女の宅急便」以来です。何が心をつかんだと思いますか。 ジョーンズ 彼の作品には様々な動くものが出てきますから、まず「城が動く」ということが魅力的だったのかも知れません。 ――映画化に際してリクエストしたことは。 ジョーンズ あまり覚えていませんが、確かハウルの性格は変えないようにお願いしたと思うわ。 ――ハウルのモデルはいますか。 ジョーンズ しいて言えばうちの末っ子。ずっと髪をとかしているような子だったもの。 ――ソフィーについては、当初、アニメーターたちが主人公だからとかわいく描きたがったのを、宮崎監督が「容赦なく、年寄りしてほしい」と求めたそうです。 ジョーンズ それこそ、彼がこの物語の本質を完全に理解している証拠だわ。とても重要なポイントなので。 ――一方で原作との違いをあげるとすれば、戦争の描き方だと思います。映画ではより具体的に戦争の場面が描かれています。 ジョーンズ 戦争の存在を忘れないでいてくれたのは嬉しいわ。原作では、ひそかに戦争の気配を感じさせる程度に抑えました。彼も私も戦争のひどさを知る世代だと思う。ただ、それをどう表現するかで違うだけ。私はどちらかというと戦争を封印していますが、男の人は大きく取り上げたいという願望を持っているのかも知れませんね。 ――ところで最近、映画化が相次ぐなどファンタジーが注目されていますが、この状況をどう思いますか。 ジョーンズ 歓迎すべきことよ。ファンタジーほど素敵なものはないと思いますから。自分が学生の時はファンタジーといえば子どものためのものでしたが、その誤解も解けつつある。ファンタジーは大人のためのものでもあるのです。 ――あまり映画化が進むと読書の楽しみを奪われませんか。 ジョーンズ 原作を読む動機になりますし、導入としてはいいことだと思います。だって、映画のヒットによってファンタジーの読者は増えているでしょう。両方を比べながら自分の想像力を広げてほしいわ。(聞き手 原田康久) (2004年10月8日 読売新聞)
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