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「キル・ビル」から「イノセンス」へ 石川社長の“戦い”

石川 光久(いしかわ みつひさ)さん


石川 光久(いしかわ みつひさ)

「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「人狼」「BLOOD LAST VAMPIRE」などで知られるアニメーション制作会社「プロダクション I.G」の代表取締役。現在、来春公開予定の押井守監督の新作「イノセンス」の製作が佳境を迎えている

 血の気の多い男だ。熱を帯びた男だ。スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、この男を「激情家」だと評する。

 石川光久。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995年)などで知られるアニメーション制作会社「プロダクション I.G」の社長。25日に公開されたクエンティン・タランティーノ監督の新作「キル・ビル」では、アニメーションパートを担当した。石川社長に聞いた。(依田謙一)

――タランティーノ監督は、以前からI.G作品のファンだったそうで。

石川 突然スタジオにやって来たこともありましたね。実は、「キル・ビル」のオファーを最初にもらった時は、お断りしたんです。会社としては、来年春公開予定の押井守監督の新作「イノセンス」と「攻殻機動隊」のテレビシリーズで手一杯で、とても人をまわせる状況ではありませんでしたから。しかし、彼は情熱的でした。「この映画にはI.Gのアニメーションが絶対に必要なんだ。とにかく脚本を読んでから考えてくれ」と。それで、送ったもらった脚本を読んでいたら、あることを強烈に思い出しまして。

――あること?

石川 「娯楽映画を作る」ということです。I.Gでは、このところずっと、リアル志向でアクションを描く作品作りをしています。細部をち密に描写する、つまりディテールにこだわることが正義だと思って取り組んできました。そんな中で読んだタランティーノの脚本は、大胆で、アニメーションでしか実現しないもの求めているんだということが、ひしひしと伝わってきた。僕らがすっかり忘れていた方法なんですね。それでやってみても面白いかなと思い始めまして。

――ところが人が足りない。


石川 脚本を読んでみて、この作品にはきちんと絵が描ける監督が必要だということは分かったので、外部の人で、確かな腕を持つ人が監督を引き受けてくれればできるかもしれないと思いました。そこで思いついたのが、フリーアニメーターの中澤一登さん。「彼が引き受けてくれたら交渉を始めよう」と。そうしたら、中澤さんに「やる」と言ってもらえまして。

――やっとタランティーノと会った。

石川 最初にオファーをもらってから、ずいぶん経っていましたけどね。しかも、会うなり「こんなギャラじゃできない」と言いました。実際に仕事してくれるパートナーたちのことを思ったら、きちんと対価を要求しないと失礼ですから。そうしたら彼は「分かった。でもそれはプロデューサーに言ってくれ」って(笑)。

――作業はどう進んだのですか。

石川 「実写にすり寄せなくていい」ということを強調されました。彼は、頭の中に具体的なイメージを持っているので、ホテルの部屋で何役も演じてみせる。それを見ながら、中澤さんが、アニメーションにするのに重要な運動をメモし、絵コンテにしていきました。

――出来上がった映像は、タランティーノに対し「仕事をさせてもらう」という感じがなかったのが良かったです。


「キル・ビル」のアニメーション部分より
石川 アニメーション部分がお飾りじゃないんですよね。タランティーノは、当初からこの映画にはアニメーションが不可欠だと言っていましたが、実際にそうなったのは嬉しいことです。

――ベッドの上で母親が殺害される時に、娘がその下で息を潜めている場面は強烈でした。

石川 アニメーションだからこそ表現できた場面だと思います。脚本では、母親は殺される前に暴行されていますが、それを直接描く必要はありません。あの描き方で、観客は十分に感じることができます。

――タランティーノ側に要求したことは。

石川 とにかくI.Gを評価してくれということです。契約書にも入れてもらいました。「日本のアニメーション」ではなく、ちゃんと「プロダクション I.G」を評価してくれと。また、エンドクレジットの掲載人数について、作品に関わったスタッフ40人の名を、すべてを載せてほしいと要求しました。当初、プロデューサーのローレンス・ベンダーからの回答は、15人以上は無理だというものでしたが、粘った結果、40人全員を掲載してもらうことができました。

――勝利ですね。

石川 たかがクレジットだと思われるかもしれませんが、僕らがやっている仕事は、世界トップクラスだという自負があります。それに関わっているすべての人に、今後も作品作りを続けていこうと思ってもらうことを、大切にしたかった。驚いたのは、実際に出来上がった作品を見たら、冒頭の場面にもI.Gの名前があったこと。これには胸が熱くなりましたね。(次ページへ続く)


「キル・ビル」クエンティン・タランティーノ監督作品

 クエンティン・タランティーノ監督、6年振りの新作。故・深作欣二監督の「仁義なき戦い」をはじめ、タランティーノが愛する様々な映画の手法を、徹底的に“サンプリング”の名の下に「奪った」作品。監督の“映画オタク”っぷりを良くも悪くもたっぷり堪能できる。
 また、撮影していくうちに、3時間を超える内容になることが判明し、突然2部作で公開されることが決まった。今回公開されたのは、前編にあたる「vol.1」。後編は、来年春に公開予定。ユマ・サーマン主演。ほかに、ルーシー・リュー、千葉真一、栗山千明など出演。

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2003年10月27日  読売新聞)
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