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「イノセンス」は始まったばかり 石川光久さんに聞く

石川 光久(いしかわ みつひさ)さん


石川 光久(いしかわ みつひさ)

1958年、東京生まれ。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「人狼」「BLOOD LAST VAMPIRE」などで知られるアニメーション制作会社「プロダクション I.G」の代表取締役。「イノセンス」プロデューサー

 「作品が出来上がったら、また会いましょう。今は話せないことばかりなので」――押井守監督の新作「イノセンス」でプロデューサーを務めたプロダクション I.Gの石川光久社長は、公開前のインタビューでこう言っていた。

 “戦場”であるかのごとく映画作りに取り組む石川社長の戦いは終わったのか。公開後にあらためて「イノセンス」について聞くインタビュー第4弾。約束を果たすため、石川社長を訪ねた。(依田謙一)

――公開されて1か月。4月11日付けの興行通信社発表のデータでは、10位にランクインしています。

石川 健闘していると思います。ずっと「500万人が観る!」と発言していたので、それと比較してどうなんだと問われるなら、“時間”だと答えたい。10年かかるかもしれないけど、必ず500万人が観ますよ。楽観的かも知れませんが、僕は常々、楽観は意志で、悲観は気分だと思っています。うまくいかないという気分が漂っていたら、どうにかなるんだという意志を持てばいいんです。

――次は、年内にドリーム・ワークス社による全米公開が待っています。

石川 3年越しの計画で、これを目玉にしてもよかったんですが、発表は国内公開の直前まで控えました。というのも、まずは国内向けの作品としてきちんと押し出したかったので。

――「海外で注目されている押井監督の新作」という打ち出しによって国内の観客を獲得する方法もあったと思うのですが。

石川 それを利用する手もあったけど、国内で風を吹かせるのって、そんなに生やさしいことじゃなくてね。もちろん、海外での評価があったからこそ、これだけの製作予算を組むことができたし、海外で公開されればきっと大きな風が吹くだろうと思っていますが、国内って全く別なんです。

――映画でも音楽でも、国内で作ったものを海外でどう広げていくかということに皆が頭を悩ませているのに、I.Gはその逆で悩んでいる。

石川 ジブリの鈴木(敏夫プロデューサー)さんと会うまでは、今までの戦略と一緒で、製作予算が20億円なら、10億円を国内公開、もう10億円は海外での公開やTVでの放映権、ビデオグラムなどで回収すればいいと考えていました。ところが、鈴木さんはそれじゃ駄目だと言う。国内公開という「第一段階」で回収できなくてどうするって。びっくりしましたよ。そんな経験ないですから。

――これまでの方法では国内で勝てない。


石川 極端なことを言えば、劇場公開は、DVDなどの「第二段階」を売っていくためのプロモーションで構わないという考え方でやってきたくらいなんです。本気で興行収入だけで回収しようとすると莫大な宣伝費もかかるし、余りにリスクが高過ぎますから。でも、鈴木さんに一喝されたことで目が覚めた。「第一段階」で成功させなくちゃ映画を一緒に作るパートナーにも申し訳がないって。ならば、海外公開という「第三段階」は経験もあることだし、「第一段階」をちゃんとやろうじゃないかと。そんなことを考えているうちに、「第四段階」も見えてきて。

――「第四段階」?

石川 最初に言ったように、“時間”です。つまり、息の長い作品を作っていかねばならない、ということ。色褪せない作品を作ることで、長期的な収入基盤となり得る。押井監督も発言していますが、「イノセンス」では、内容、質ともに少なくとも10年間は鑑賞に耐えるテーマに取り組みました。描いているのは、今の社会が抱えている、ある「闇」についてですが、それを直接言うことは封印しました。観客動員にもつながりませんし、5年、10年と経つことで、もっと如実に現れてくる問題だと思ったからです。前作「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(1995年)が、今のネット社会を描いたようにね。

――鈴木プロデューサーとの初タッグについては。

石川 「片道の燃料しか積まずに、えいやって突っ込めばいいと思っているんだろう。だったら俺を帰りの燃料として積め」という話をされたことが、鈴木さんにプロデューサーを依頼しようと決断したきっかけですが、いざ動き出したら、帰りの燃料どころか、予備タンクまで積んでくれた。具体的な例を挙げればキリがないくらいお世話になりました。頭が上がりません。

――製作協力したジブリとも、ある意味では戦いだということでしたが。

石川 1勝1敗かな。何がと言われると困るんだけど。すごくそんな気がしています。(次ページへ続く)

2004年4月20日  読売新聞)
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