登場人物はすべて宮崎さんの分身 美輪明宏さんに聞く美輪 明宏(みわ あきひろ)さん
――11月8日に行われた完成披露試写会では「白雪姫の役でなくて残念だった」とおっしゃっていましたが。 美輪 女性週刊誌とテレビのワイドショー向けのサービスですよ(笑)。「奥様にお許しをいただいて(ハウル役の)木村(拓哉)君と不倫させていただきたい」と言ったのもそう。映画の中身について話してもあまり取り上げてくれませんからね。 ――「もののけ姫」(1997年)以来の出演ですが。 美輪 あの作品で演じた犬神のモロは、性を超越した存在であり、達観しながら、生々しい部分も残しているという重層的な役だった。今度もね、恐ろしい魔女なんだけど、どこか憎めない。最後は赤ちゃんみたいになって、しかも色気は残している。宮崎さんの作品に登場するキャラクターは皆、矛盾を抱えた存在なんですよ。世の中のものは、皆、相反するものを持っているでしょう。善なるものにも欠点があって当たり前。そしてそれは、宮崎さんの分身でもある。 ――荒地の魔女も。 美輪 三島由紀夫もそうだけど、作者の細胞一つ一つが具現化した存在なんですよ。木村君が宮崎さんを「白髪の生えた少年」と言っていたのは、まさにその通り。出てくるキャラクターは皆、「あれも宮崎さん、これも宮崎さん」なんです。単純な人物は一人も登場しません。ソフィーも矛盾だらけ。ハウルはもっと複雑。もちろん荒地の魔女も。私たち声優はそれをどう演じるかを常に問われましたね。 ――監督との打ち合わせは。
――録音の様子は。 美輪 早かったですよ。宮崎さんとはあらゆる面で一卵性双生児みたいに好みが同じなの。ですから彼の考えていることが手に取るように分かるわけ。だから、1回合わせてみて、録音したら「はい、OK」って。コントロールルームを見たら宮崎さんは転げまわって笑っていましたね。でも、実はすごい緊張感があるんですよ。だって皆、彼が完全主義なのを知っていますから。 ――美輪さんから見た「ハウル」はどんな作品ですか。 美輪 テーマは「家族」だと思う。家族とは何だ、ということに対しての宮崎さんの答えなんです。病気とか借金とかいじめとか、いろんな困難を分かち合い、憎んだり憎まれたりした思い出の積み重ねで人は家族になるんですよ。「血のつながり」なんて言うけれど、血液はただの物質。 ――血を分けただけでは家族と言えない、ということですか。 美輪 中国残留孤児の方について、こんな話を聞いたことがあります。肉親同士が再会し、お互いに「苦しかったね」と感激しても、それは当座のことでしかない。一月経ち、二月経つと、喧嘩が始まってしまう。油の炒め方一つで、相容れない部分も出てくる。でも、生活をするってそういうこと。何も悪いことじゃない。喜怒哀楽を共にしているうちに、やがて愛情が芽生え、やっと家族になるんです。宮崎さんとはそんな話もしました。 ――確かに、ハウルの城で共同生活する人々には、血縁関係がありません。 美輪 彼らが家族としてうまくいったのは、ハウルがあまり家にいなかったからだと思います。ハウルが朝から晩まで家にいたら、近親憎悪が始まったでしょう。遠慮がなくなり、お互いの人格を立てるということをしなくなる。 ――共演者については。 美輪 (ソフィー役の)倍賞(千恵子)さんは、若くなったり、中年になったり、老婆になるという難しい役だったと思うのですが、それらを的確に演じてらっしゃいましたね。また、木村君には本当に驚かされました。いつもは屈折した感じの役作りだけど、あまりに素晴らしかったので、完成披露の楽屋で「秘密を白状しなさい」って問い詰めたんです。彼は「台本を解釈しただけです」と言っていましたけど。この作品は、彼にとって何かのきっかけになるかも知れない。今まで、能力をちゃんと引き出せる演出家がいなかったのね。木村君の演技こそ、宮崎さんが演出家としてもいかに優れているかという証拠ですよ。(聞き手 原田康久)
(2004年12月28日 読売新聞)
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