名作が生まれる場所 奥山玲子・小田部羊一夫妻に聞く奥山 玲子(おくやま れいこ)さん
小田部 羊一(こたべ よういち)さん
彼らの仕事を、アニメーションが「漫画映画」と呼ばれていた時代からたどる展示会「日本漫画映画の全貌」が、東京・清澄白河の東京都現代美術館で開かれている。中心となるのは、日本最初の長編カラーアニメーション映画「白蛇伝」(1958年)を制作した東映動画(現・東映アニメーション)の紹介。スタジオジブリをはじめ、現在のアニメーション界へつながる人材を数多く輩出したスタジオで、高畑勲、宮崎駿両監督も在籍していた。 当時の東映動画はどんな場所だったのか。数々の名作を手掛けたアニメーターの奥山玲子・小田部羊一夫妻に聞いた。(依田謙一) ――アニメーションに興味を持ったきっかけは。 小田部 小さい頃、短編作品「桃太郎の海鷲」(42年)などを観て、まだ漫画映画と呼ばれていたアニメーションにひかれました。絵で描いた戦闘機が動くのが面白くて夢中になったのを覚えています。父親の趣味が油絵だった影響で、そのうち自分でも絵を描くようになりました。油絵は得意ではなかったので、水彩画ばかり描いていましたね。高校で進路に迷っていた頃、日本画なら水彩画を続けられると知り、日本画科のある東京芸術大学に入りました。 ――日本画家になろうとは思わなかったのですか。
――奥山さんの場合は。 奥山 私の場合は、漫画にも漫画映画にもまったく興味がありませんでした。絵を描くのは好きでしたが、父の強い意向で地元の東北大学教育学部に進学し、教員になることを望まれていました。自分で選んだ道ではありませんでしたから、3年生になった時にとうとう嫌気が差してしまい、家出同然で東京に出て来ました。親はカンカンでしたね。「もう面倒は見ない」と言って、本当に放っておかれました。 ――厳しい現実を知れば我慢できなくなって戻ってくるだろうと。 奥山 それを分かっていましたから、デザイン会社に働き口を見つけて、よし頑張るぞと張り切っていました。ところが、不景気で給料の遅配が続き、早々にやっていける状況でなくなってしまった。もう駄目かなと思った矢先、映画会社に務めていた叔父が、東映動画の募集を教えてくれたんです。「ドウガの募集」と言われて、てっきり「童画」、つまり絵本の挿し絵などを描く仕事だと思っていました。それならやってみたいと受けたら、実は「動画」だと分かって(笑)。 ――よく合格しましたね。
――当時の東映動画は。 小田部 大川博社長が「ディズニーに追いつけ追い越せ」と盛んに言っていたように、上昇志向が非常に強かった。班編成になっていたこともあり、大塚康生さんをはじめとする各班の班長は戦国時代の武将のようでした。新人についても、あいつが欲しいとかこいつは要らないとか、激しくやっていましたね。 奥山 一方で学校みたいな雰囲気もありました。隣りが映画の撮影所だったので、昼休みになるとよくセットで缶蹴りや鬼ごっこをしたりして。 ――最初の仕事は。 奥山 定期採用の第一期だった喜多真佐武さんの班に入ってやった「白蛇伝」の動画です。各班にはそれぞれ特色があって、戦闘場面が得意な班もあれば自然描写が上手な班もありましたが、喜多さんは「長靴をはいた猫」(69年)の作画監督で知られる森康二さんの系統で、動物を描くのが得意な人。線一本引くのもいい加減だった私に、漫画映画の基本を教えてくれました。
奥山 楠部さんをはじめ、腕もいいし弁が立つ人はやっぱりいい場面を持ってくる。逆に腕はいいけど控えめなリーダーの班は、どうしても地味な仕事が多かったように思います。今の若い人ってアニメーターに限らず自己主張しないでしょう。当時は「俺にやらせろ」って言わないと脇に追いやられて仕事がなかった時代です。私も森さんと大工原章さんの両方に「原画を下さい」ってやらせてもらっていました。 ――正統派アニメーターとして知られる政岡憲三さんに師事した森さんと、デフォルメが特徴の大工原さんの間で仕事をするのは大変だったのでは。 奥山 逆ですね。おおらかで感覚的な大工原さんと、基礎を重視する森さんの下でタイプの異なる絵を描き続けたことで、かえって集中できました。飽きっぽい性格なので、片方だけだったら息が詰まってしまったと思います。 小田部 彼女は作風の違う絵を調整するのがとても上手でした。同じキャラクターを描いても描き手によって線の太さやニュアンスが微妙に異なりますから、それを調整する役目って重要なんです。自ら「やらせて下さい」と言って熱心に取り組んでいましたね。 奥山 あなたは反対に主張しない人だったのに、不思議と仕事があったわね。いつの時代にもこういう得な人っているんです(笑)。(次ページへ続く) (2004年7月27日 読売新聞)
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